しっぽや2(ニャン)

□未来に繋がる物語3
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side〈TAKESHI〉

俺はガキの頃、少し変わった子だったと思う。
飼っていた猫と話が出来ると思いこんでいたのだ。
もうその頃の記憶は定かではなく、夢だったのではないかとさえ思っている。
大好きだった猫の『しるば』が死んだ後、当時幼稚園児だった俺はその事実を受け入れられなかった。
しるばが『猫は人間になれる』と言っていたので、街中でずっとそれらしき人を探していた。
いつまで探してもそんな人は見つからず小学2年生になっていたこともありさすがに諦めかけていた時、俺は『彼』に出会ったのだ。

しるばと同じ、白に銀の毛が混じった長い髪。
一目でしるばだと気が付いた俺は、嬉しさのあまりその人にタックルをかまして飛びついてしまった。
けれども彼はしるばではなかった。
彼は『ナガト』と名乗り、一緒にいたスキンヘッド(当時はそんな言葉を知らず、お坊さんだと思っていた)のおじさんは『ゲンちゃん』と名乗った。
彼らは訳の分からないことをまくし立てるガキだった俺に優しくしてくれて、真剣に話を聞いてくれた。
別れ際、ナガトは電話番号を書いた名刺を俺に手渡してくれる。
ナガトと繋がりをもてたことは、俺にとってとても嬉しいことだった。


その電話番号に電話をかけてみる機会は、案外早く訪れた。
当時妊娠中だった俺の母親が、予定日より早く産気づいたのだ。
母親は元より、父親も慌てて病院に行ってしまい俺は一人家に取り残されてしまう。
『お兄ちゃんになるんだから』
そう自分に言い聞かせても、不安な気持ちは拭いきれなかった。
『寂しくなったら電話してください』
そう言って渡してくれた名刺のことを思い出し、俺はドキドキしながらその番号に電話してみた。
コール音が鳴っている間中、ナガトと会えたことは夢だったんじゃないかと泣きそうになってしまう。

何度目かのコールの後
『はい、長瀞です』
そう言ってナガトが電話に出てくれた。
確かに聞こえたナガトの声に、今度は安堵で涙が出そうになった。
「あの、僕、丈志です
 えと、武川丈志です」
俺が必死になって名乗ると
「ああ、タケぽんですか
 どうしました?お家の人は居ないのですか?」
ナガトは優しくそう聞いてくれた。
ナガトが自分を覚えていてくれたことが、俺にはたまらなく嬉しかった。

「ママもパパも病院に行っちゃったの
 赤ちゃんが産まれそうなんだ
 でも、いつ帰ってくるのかわからなくて
 僕、お腹空いたよ」
安堵した俺は泣き出してしまう。
すると電話の相手がゲンちゃんに代わり
「タケぽん、自分の家の住所言えるか?
 家が分かれば俺とナガトが駆けつけるから、少し我慢して待っててくれ」
そんな頼もしいことを言ってくれた。
俺は何とか住所と最寄り駅を伝える。
「なるほど、あの辺か
 ここから遠くないし、1時間くらいで行くからな
 知らない人が来ても、鍵開けちゃダメだぞ」
2人が来てくれる、それは夢みたいに嬉しいことであった。

2人が来てくれるまでどれくらい待ったか、よく覚えていない。
ナガトはオニギリとおかずを持ってきてくれた。
「有り合わせの物でごめんなさい
 わかっていたら、はりきってお弁当を作ったのですが」
レンジで温め直したそれと、インスタントの味噌汁、それは今まで食べた中で一番美味しいと感じられる物だった。

それから父親が帰ってくるまで2人は家に居てくれた。
知らない人を勝手に家に入れたと怒られるかと思ったけど、ゲンちゃんが名刺を渡すと父親は
「あれ、ここ、こないだ友達がお世話になったって言ってた不動産屋だ
 支店長さんがヨンプラザさんのファンだって…貴方のことですか!
 いや、実は俺もファンなんです
 その格好、気合い入ってますね
 俺もやってみたいけど、さすがにスキンヘッドにする勇気なくて」
とかなんとか、俺にはよく分からない話題でゲンちゃんと盛り上がっていた。
それ以来、2人とは家族ぐるみの付き合いをしている。


中学に上がった直後、何気なく寄ったペットショップでしるばを彷彿とさせるチンチラシルバーの子猫を見かけた。
今まで他の子猫を見ても感じたことのない懐かしさと愛おしさが、胸に沸き上がってきたのだ。
その子猫は他の客には目もくれず、俺を目で追っている。
指を動かしてやるとガラスケースの向こうから、小さな前足を必死に動かして触ろうとしてくれた。
ゲンちゃんとナガトに相談したら
「しるばは落ち着いたら戻るから、探してくれと言っていたのでしょう
 タケぽんは、ちゃんと探し出せたのですよ」
「旅行とか行くときは俺の家で預かってやるぜ
 父ちゃんと母ちゃん連れて店に行ってみ、きっと2人も気に入るさ」
2人はそんなことを言ってくれた。

子供の時の戯言を覚えていてくれたこと、子猫を飼いたいなんて子供じみた望みを後押ししてくれたこと、俺のことを一人前の人間として扱ってくれる2人がとても好きだった。
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