しっぽや2(ニャン)

□再生の旅
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side〈NAGATORO〉

影森マンションの自室、夜の寝室のベッドの中で
「ナガト…」
ゲンが愛おしそうに名前を呼んで、私にソッとキスをしてくれる。
ゲンの指が優しく私の長い髪を撫でるたび、体に甘いしびれが広がっていく。
「ゲン…」
私も積極的に彼の唇を求めながら、その細い体を抱きしめた。
私たちは既に衣服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿で抱き合っている。
キスは舌を絡める激しいものに代わり、部屋には湿った音が響きわたっていた。

「愛してるよ」
そう囁きながら、ゲンの唇が徐々に首筋から胸元に移動する。
胸の突起に優しく歯をたてられると、その刺激で私の吐息がさらに熱くなっていった。
「ああ…ゲン、私もお慕いしております」
彼の指が私の体の中心を包み刺激し始めると、熱い思いが堪えられなくなっていく。
指の動きに合わせて体が自然と誘うように動き
「射れてください、もっとゲンを感じたい」
そんな淫らな言葉が口をついてしまう。
ゲンは上気した顔で微笑み返事の代わりにキスをしてくれて、そのまま熱い自身で私を貫いた。
私達は唇を合わせながら、一つに繋がり合う。
「ん…あっ、ああっ…」
合わせた唇の間から、甘く激しい吐息がもれだした。
私は心も体もゲンと繋がっていることを強く実感し、歓喜の波に飲まれていく。
彼の動きにあわせて、私の腰も淫らに動いていた。
「ナガト…!」
彼に深く貫かれ熱い思いを解放されると
「ゲン…!」
私も自身の想いを解放した。

ベッドの中で暫くはお互いの荒い息遣いを聞いていたが、少しずつ息が穏やかになっていく。
私は行為の後ゲンに抱かれ、優しく撫でてもらうこの時間が大好きだった。
「ナガト、来週、休み取れるか?」
ゲンがそっと聞いてくる言葉の意味を、私は理解していた。
「はい、明日、黒谷に頼んでみます」
私はすぐにそう答える。
「マリちゃんが死んでから、もう3年か…
 早いもんだ」
しみじみと呟くゲンの胸に、私は顔を埋めた。
ゲンと穏やかに過ごすこの時間のため、夜間の寝室には出入り禁止をしていたので、彼女には寂しい思いをさせてしまった。
私にとってそのことは、彼女に対する負い目になっている。
「ナガト、そんな顔しないの
 この時間を邪魔されたくなかったのは、俺も一緒なんだから」
私の心を見透かすように、ゲンが優しく話しかけ、髪にキスをしてくれた。

そんな会話を交わしたせいだろうか、私はその夜夢を見た。
それは今から3年前、影森マンションに越してから数年経った日のことで、私にとって忘れられない1日の出来事であった。




「マリさん、具合はどうですか?」
私はしっぽやへの出勤前の時間に、当時の同居人であるヒマラヤンのマリさんに声をかけた。
マリさんは私とゲンが知り合うきっかけを作ってくれた猫で、影森マンションに越した時にゲンが実家から引き取って一緒に暮らしていたのであった。
『別に、いつもと一緒よ』
マリさんはツンとした態度で応じる。
飼い主であるゲンを取ってしまった私の事を、マリさんは快く思っていないのだ。
『いつもと一緒』
彼女はそう言っているが、高齢の彼女に忍び寄る黒い影に私は気が付いていた。
自分で上手くグルーミングできなくなってきたので、背中の毛が固まって筆先のようになってしまっている。
彼女をなだめすかしてその固まりをほぐすのが、最近の私の仕事のようになっていた。
このところ食欲が落ち、そのため急激に痩せていく彼女とのお別れが近いことは、私を暗鬱な気持ちにさせるのであった。

「マリちゃん、ごめんな
 今日は得意先の人との付き合いがあるから、帰りが遅いんだ
 ナガトと仲良くお留守番してて」
ゲンに話しかけられ、すっかり艶が無くなってしまった毛を撫でられると
「にゃ〜ん」
彼女は甘えた声で答え、その手に頭をすり付けた。
「ナガト、マリちゃんのことよろしく頼むよ」
ゲンが心配そうな顔を私に向けてくる。
ゲンも複数の猫を看取った経験があるので、最近のマリさんの具合がすこぶる良くないことを感じているのだろう。
出勤する私たちを見送るマリさんが呟いた
『ゲンちゃん、今日は帰りが遅いのね…』
その言葉は、不吉な予言のように私の胸に響くのであった。
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