しっぽや2(ニャン)

□いつまでも2人で
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その土盛りに最初に気が付いたのは皆野だった。
『あの小山、なんだろう』
『新しい土の匂いがするな』
山の中にある開けた場所に、新しい土で小山が築かれていた。
何故か葉のない木の枝が刺してある。
側には白い物が2つ並べてあった。
『骨かな?あの大きさだと頭蓋骨かも』
『中に雨水が溜まってるといいな』
俺達はそんなことを言いながら、恐る恐る土盛りに近づいた。
思った通り、白い物の中には水が溜まっていた。
小川の水や雨水とは違う臭いがしたが、このところ上手く水にありつけなかった俺達は夢中でのどの渇きを癒したのだ。
『何の骨だろう』
臭いを嗅いでみてもよくわからず、舐めると骨より冷たく滑らかだった。
微かに、嗅いだことのない生き物の匂いがした。

『こっちにも何か入ってるよ、良い匂いだよ』
皆野が興奮した声を上げる。
もう1つの白い物の中には、小石のような物が入っていた。
しかし皆野の言う通り、それは香ばしく良い匂いを放っている。
『食べられるのかな』
恐る恐る口に含むと、今までに食べたこともないような美味しい味が口の中に広がった。
『美味い!これ美味いよ!』
ガツガツと小石をむさぼる俺を見て安心した皆野も、それを食べ始めた。
あっという間に白い物の中の小石は無くなった。
『どこから降ってきたんだろう』
『また、降ってくるかな』
俺達はこの側をねぐらにし、また小石が降ってくるのを待つことに決めた。



ブロロロロロ

聞いたことのない鳴き声が聞こえ、俺と皆野は慌てて木に駆け上った。
『今の声、なんだろ』
『狐や熊じゃないな』
暫くすると、ミシリミシリと大きな生き物が落ち葉や小枝を踏む音が聞こえてきた。
ゆっくりと移動する音は熊の物のようにも聞こえ、俺達はさらに警戒する。
やがて土盛りの前に、見たことのない生き物が2匹も姿を現した。
『熊みたいに2本足で歩いてるけど、熊じゃない』
『母さんが言ってた「人間」ってやつかも』
俺達は木の上で息を殺して『人間』を見ていた。
『人間』は土盛りの前まで来ると
「やあ、ベル、元気かい?」
「お父さん、死んでいるのに元気も何もありませんよ」
そんな事を話している。
「いやいや、元気みたいだぞ
 母さんも見てみろ、カリカリも水もきれいになくなっとる
 食いしん坊ベルが食べたに違いないわ」
「あら、狐でも来たのかしら」
2匹は白い物をのぞき込んで笑っていた。
「森に仲間入りさせてもらったんだ、森の仲間に分けてやるのが筋だろうな
 おい、ベルが残していったカリカリはまだあるから、また食べにおいで」
「お父さん、大声出したらビックリして逃げちゃいますよ」
2匹は白いものに小石と水を入れ、土盛りに花を置くと居なくなった。
また
ブロロロロロ
と、鳴き声が聞こえた。

2匹が戻ってくる気配を見せないので、俺達は土盛りの側に近付いていった。
『これ、この土盛りのものだったのか』
俺達は顔を見合わせる。
小石からは、良い匂いが漂っていた。
『土盛りはこんなの食べないんだから、もらっても良いよな』
俺が言うと

ー 良いよ ー

犬の気配が答えた。
俺達は野犬に襲われたこともあるので、驚いて木の上に駆け上がった。
しかし野犬の姿はなく

ー お父さんとお母さんをよろしくね ー

優しく穏やかな犬の気配だけが答えてくる。
俺達はビクビクしながら土盛りに戻り、小石をキレイにたいらげるのであった。


それから人間『お父さん』と『お母さん』はちょくちょく土盛りに来るようになった。
「狐や犬より小さい足跡だな」
「狸かしら?」
俺達の足跡を見ながら不思議がっている姿をこっそり木の上から見るのは、何だか楽しかった。
ここにいるだけで食べられる小石(カリカリと言うらしい)が手に入るのも楽で良かった。
何より、人間を警戒する狐や野犬が来ないことはありがたかったのだ。

早くカリカリが食べたくて、俺達は大胆な行動をとるようになっていった。
木の上からではなく、もっと近くでお父さんとお母さんが立ち去るのを待つようになったのだ。
「あらあら、お父さん、あそこ」
「なんとまあ、こんなところに猫が…」
2人は俺達を見て驚いた顔をする。
「俺は猫にドッグフードをあげとったのか
 猫がドックフードなんて食うんだなあ」
「お腹空いてるのね、まだ子猫っぽいし痩せてるわ
 トムキャット、っていうのかしら
 お腹が白くて、背中が黒い猫」
「2匹とも前足には手袋、後ろ足はソックス履いてるように白いじゃないか
 面白いなあ、可愛いねえ」
「ええ、可愛いですねえ」
2人が何を言っているのかこの時の俺達にはわからなかったが、誉められている気がして悪い気はしなかった。
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