しっぽや2(ニャン)

□猫と人
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side〈HANYUU〉

「羽生、ちょっと良いかな?」
捜索を終えてしっぽや事務所に帰ってきた俺に、バイトに来ていた荒木が声をかけてくる。
「何、何?」
俺が荒木に近づくと
「前にさ、黒猫コミュのオフ会に行ったときのこと覚えてる?」
そんな事を聞いてきた。
「確か、サトシを探してもらってる時に行ったところ
 良い人間がいっぱいいて、美味しい物がいっぱいあるところだね」
あの時、色んな人に『可愛い』と言われ優しく撫でてもらった事を覚えている。
あれで俺は改めて『人間って良いな』って思ったのだ。

「あの時は6月9日の祭りでプレオフ祭だったんだ
 今度は9月6日に本祭があるんだよ
 俺は参加するんだけど、皆に『羽生君は来ないのか?』って聞かれてさ
 あの人達、無意識にお前が猫だって気が付いてるのかも
 黒猫飼いって、黒猫の気配に敏感なんだよ」
荒木は考え込む顔を見せた。
「まあ、バレないとは思うし、変に騒ぎ立てるような人達じゃないから大丈夫だと思うけどさ
 良かったら、また参加しない?」
荒木はそう誘ってくれた。
「また、あの人達に会えるの?
 行きたい!俺、今はちゃんとお箸持てるようになったんだよ
 誉めてくれるかな?」
俺は何だか嬉しくなってくる。
「うん、きっと誉めてくれるよ
 高校生の箸使いを誉めるってのも何だけど、あの人達なら誉めると思う
 なんせ、黒猫飼いは個性的な人多いから
 あれ?って事は俺もか?」
荒木は少し困ったように笑って見せた。
「正式な返事は、中川先生に許可もらってからで良いよ
 どんな集まりか先生にも説明した方が安心してもらえると思うから、明日、学校で言っとくね
 羽生からも先生に話しておいて」
荒木の言葉に
「うん!」
俺はワクワクしながら頷いた。

その夜、夕飯を食べた後くつろいでいるサトシに、オフ会に行ってみたいと切り出した。
「前に参加したとき、皆、俺のこと可愛いって誉めてくれたの
 いっぱい撫でてもらったよ
 皆、猫が好きで、すごく良い人達なんだ
 荒木が『変に騒ぎ立てるような人達じゃないから大丈夫』って言ってたし
 未成年者の参加時間は9時まで、ってちゃんと決まってるの
 ネットの集まり、って言っても、ちゃんとしたとこなんだよ」
一生懸命説明する俺を、サトシは微笑んで見ていてくれた。
「そうか、可愛がってもらったのか
 野上も一緒に行くなら、大丈夫だろう
 きちんとしたオフ会みたいだしな」
サトシはそう言って優しく頭を撫でてくれる。
「飼い猫が誉められるのは嬉しいけど、羽生が他の人に懐くのはちょっと妬けるかな」
少し苦笑するサトシに
「でもでも、俺が1番好きな人間はサトシだからね!」
俺は慌てて抱きついた。
「うん、そうだな」
サトシは笑って俺にキスをしてくれた。

俺とサトシはそのまま何度も唇を合わせる。
最初は軽く、しかしそれは徐々に深いものに変わっていった。
胸がドキドキし、体中に甘い痺れが広がっていく。
「これしたいの、サトシとだけだから」
熱い吐息とともにサトシの耳元で囁くと
「俺もだよ」
サトシも囁き返してくれる。
俺達はそのままベッドに移動して、お互いの思いを確かめ合うのであった。



9月6日、オフ会当日。
しっぽや事務所に迎えに来てくれた荒木に制服を借り、着替えてから会場であるファミレスに移動する。
荒木と一緒に電車に乗ると、ドアガラスに映る俺達の姿を荒木がマジマジと見つめていた。
「やっぱり…、前の時は俺の方が背が高かったのに
 抜かされてる
 デカくなったな、とは思ってたけどさ
 こんなに急激に差が付くとは思わなかったよ
 3cmくらい違うんじゃないか?」
荒木がため息とともに言う。

「え?俺、デカくなった?
 だって白久とか空の方が全然デカいよ?」
首を傾げる俺に
「最初に会ったときは、羽生より俺の方がデカかったの」
荒木は少しムクレた声を出した。
「でも、前から荒木は小さくて可愛い人間だったけど」
荒木が何を気にしているのかわからず、俺はそう言ってみる。
「子猫に『小さくて可愛い人間』だと思われてたとか…
 …良いんだ、俺、日野よりはデカいんだから…」
荒木は何故か遠い目をして呟いていた。
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