しっぽや2(ニャン)

□先輩の教え2
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仕事が終わり買い物をして、マンションの俺の部屋に長瀞と2人で帰る。
「お弁当のおさらいをしましょうね」
2人でキッチンに立つと長瀞はそう言って、熱くしたフライパンに油を入れた。
少しだけ包丁で切れ目を入れたウインナーを入れると、菜箸で器用に炒め始める。
俺はそれを見ているうちに、今はもう無いヒゲがムズムズする感覚になっていた。

「あのね、これ、炒めてるとコロコロするでしょ?
 どうしても追いかけたくなって、箸でエイ、エイってやっちゃうの
 そうしてると、いじってないウインナーが焦げちゃって、そっちを転がしてると別のが焦げるの」
俺は長瀞の手元を見ながら、困ってそう言ってみる。
今も、あのコロコロを追いかけたくてウズウズしていた。
「ああ、それで焼きムラが…
 では、あの卵もそうでしょう?」
長瀞は納得した顔になって聞いてくる。
「うん、卵って、いじってるとポロポロしてくるから、面白いんだ
 ウインナーみたく弾まないのはつまんないけど」
俺が言うと
「羽生はまだまだ子供だね」
長瀞はププッと吹き出した。

長瀞はキレイな焼き色のウインナーを皿に乗せると、またフライパンに油を入れて、今度は溶いた卵を流し入れる。
「貴方は少し、波久礼に稽古をつけてもらって体力を発散した方が良さそうです
 白久が言うには、彼は『子猫好き』らしいので、上手いこと遊んでくれますよ
 私達大人の猫は、彼の体力にはついていけませんから」
軽くかき混ぜた卵を菜箸で寄せながら、長瀞はそんな事を言った。
「え…?ヤだよ、だって、波久礼って怖いんだもん…
 声大きいし、体もデカいし」
俺はブスッと、そう言ってみる。
「ああ、まあね、それで私達も彼はちょっと苦手なんですが
 白久や黒谷は穏やかな犬なのに、犬も色々ですね
 ほら出来た、卵は『余熱』でも火が通るから、あまり焼き過ぎない方が良いですよ」
長瀞は、あっという間にキレイにまとめた卵焼きを、お皿のウインナーの隣に乗せた。
「もう出来たの?」
俺はビックリしてしまう。

長瀞は今度は鮭の切り身をフライパンに乗せた。
「本当は、何か炒めながらグリルで魚を焼くと時間の節約になるけど…
 多分、羽生にはまだ無理でしょう
 どれもこれも、焦がしてしまいそうだ
 1つ1つ確実に作ることを覚えてからになさい」
長瀞の言葉に、俺は頷く事しか出来なかった。
それからも長瀞はフライパン1つで次々と料理を作っていく。
俺は、呆然とその様子を眺めていた。

「色々な物をバランス良く食べていただくよう、工夫してみてくださいね
 野菜も、キチンと食べさせないと
 ゲンは注意してないと、肉と甘い物だけで済ませようとするから
 一度にあまり食べられないと言うのに…」
長瀞は溜め息をつくけど、それは何だか楽しそうに見えた。
「さて、鮭はお茶漬け用、白菜と人参の干しエビ炒めはそのおかずにして、と
 こちらのおかずは、私達の夕飯にしましょうね」
長瀞の作ってくれたおかずを持って、テーブルに移動する。
保温してあったご飯をよそうと、俺達は食事を食べ始めた。
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