しっぽや2(ニャン)

□先輩の教え1
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「何だ、わかってんなら契ってやりゃ良いじゃん?
 化生にとって『それは最高の誉れ』って、いつもナガトも言ってるぜ
 もうチューくらいはしてんだろ?」
ゲンさんはニヤニヤしながら、そんな事を聞いてくる。
「あ、まあ、その、…キスはもうしてますが
 おはようとかおやすみとか、行ってきますとかお帰りとか、そんな感じで」
俺が照れながら告白すると
「っかー、新婚かっつーの!
 何だよ、結局ラブラブなんじゃん!
 おいおい、ノロケたくて呼び出したのか?」
ゲンさんは笑ってグイッとビールを飲んだ。

「で、でも、何て言うか羽生は見た目がその…」
俺は言い淀んでしまう。
「ああ、あいつ、露骨に『未成年』って顔してるもんな
 ま、死んだのが子猫の時だし、お前さんが中学生の時に飼ってたんだろ?
 あいつにとって人間の姿と年齢って、あんなもんなんだろうなー
 多分、もう少し外見は成長するんじゃないか、ってナガトが言ってたけど
 あんな小さい化生、本当にイレギュラーらしいから初めてづくしなんだよ
 大抵、化生の外見は20代くらいだからな
 自分にとって、最も力があった年代を無意識のうちに人間の姿に置き換えて、外見に選んでるんだろう
 黒谷が他の化生よりちょいと年くって見えるのは、前の飼い主の影響かね
 あの外見のおかげで、所長としてあんま違和感ないけどさ」
ゲンさんは神妙な顔で頷いた。

「化生ってのは、『化生直前の飼い主』ってやつの影響をモロに受けるらしい
 ナガトの化生直前の飼い主は、世話好きなお婆ちゃんだったんだ
 記憶の転写、ってやつで見せてもらったよ
 だからあいつ、世話女房みたいなんだよな
 俺がガキの頃病気してたって知ってっから、余計に俺の『健康』を守ろうと必死なとこあってよー
 独学で人間の健康について色々調べてんだ、可愛いだろ?」
ゲンさんは幸せそうに笑う。
「そういや、お前は羽生の記憶の転写、見てないのか
 んなもん見なくても、お前達は同じ時間を過ごしてたんだもんな
 あいつらが愛しそうに言う『あのお方』って奴、羽生にとってはお前自身なんだ
 それは、俺達飼い主にとっては、正直とんでもなく羨ましい…
 最初から自分が飼って幸せにしてやりたかった、あいつらの過去を見るとそう思わずにはいられないぜ…」
ゲンさんは悔しそうに顔を歪める。

「ああ、『未成年』っていや、荒木少年も初めて会った時は、正直高校生にゃ見えなくて驚いたぜ
 今時の高校生って、皆、あんなん?」
気を取り直し首を捻るゲンさんに
「いえ、野上みたいな子の方が少ないですよ
 最近の子は発育良いから、男子は俺より背の高い生徒が多いんです
 見た目だけなら『大人』ですね
 でも、まだまだ、やんちゃで可愛い生徒ばかりです」
俺は笑って答えて、揚げ出し豆腐を口にする。
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