しっぽや2(ニャン)

□先輩の教え1
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宿直の先生に挨拶をし、俺は7時に学校を後にする。
8時前には、待ち合わせ場所である店に着いた。
正統派『昭和の赤提灯』といった店構えで、いつも年配のサラリーマンで賑わっているようなので、俺は今まで入った事は無かった。

ガラリと引き戸を開けると
「お、中川ちゃん、こっちこっち」
すぐにゲンさんが俺に声をかけてくれた。
いつものように、スキンヘッドに背広、丸サングラスの彼であったが、その姿は妙にこの店に馴染んでいる。
「俺もさっき着いたとこで、まだ注文してねーの
 やっぱここは『とりあえずビール』だな!
 後、千鳥に来たなら焼き鳥盛り合わせとモツ煮込みは外せない!
 で、ビールには枝豆、と法律で決まってんのよ
 野菜食わないとナガトがうるさいから、大根サラダも頼むかな
 中川ちゃんは?他に何食いたい?」
ゲンさんはニコニコしながら聞いてくる。
「あ、じゃあ、揚げ出し豆腐とモロキュウを」
俺が答えると
「渋いねー、若人らしく『トリカラ』とか『串揚げ』って言うと思ったのに
 あ、オバチャン、とりあえずビールね!
 焼き鳥盛り合わせ、モツ煮込み、枝豆、大根サラダ、揚げ出し豆腐にモロキュウも!」
ゲンさんは一気に注文してくれた。

ビールが運ばれてくると
「んじゃ、乾杯すっか!」
ゲンさんはにこやかにジョッキを手に取った。
俺もそれに習いジョッキを手に取ると
「乾杯!」
そう言ってゲンさんのジョッキと軽く合わせる。
「化生達の幸福に、乾杯!」
ゲンさんは笑いながらそう言った。
俺は慌てて辺りを見回してしまう。
「平気だよ、こんなとこで他人の会話を盗み聞きする奴はいねーって
 化生の話を聞かれたって、酔っ払いの戯言にしか聞こえないっつの
 つか、ちょっと宗教ぽいって思われて、ドン引きされるのがオチ」
ゲンさんはヒヒヒッと笑う。

ビールを飲み、つまみに箸をつけながら
「今日は付き合ってくれて、ありがとうございます
 それで、あの、相談なんですが
 何から切り出せばいいやら…」
どう言ったものかと、自分で誘っておきながら俺は躊躇してしまう。
「フッフッフッ、オジサンにゃちゃーんとわかってるよ
 羽生の事だろ?
 あいつ、もしかして発情してきてるんじゃないのか?
 前から美少年だったけど、最近キラキラの度合いがアップしてるもんな
 お前さんにアピールしてんじゃないの?」
ゲンさんは、俺が言い出せなかった事をサラリと口にした。
「え?あ、はい、その、何て言うか…
 多分、そうなんじゃないかと…」
俺は、赤くなって俯いた。

最近羽生は俺の事を、じっと見つめる事が多くなった。
そんな時は瞳が潤んでいるので最初は熱でもあるんじゃないかと心配したが、どうもそうではないらしい。
熱を計ろうと額に触れると、ピクリと身を竦ませる。
それでいて俺と離れるのは嫌らしく、ピッタリと身を寄せてきたりするのだ。
自分でも、自分の体がどうなっているのか、よくわかっていない風であった。
そんな変化を見て、まだ羽生と暮らし始める以前に白久(しろく)に言われていた事を、俺は思い出していた。
『羽生は化生する直前の世で発情期がくる前に死んでいるので、なかなか自分の体の変化に気が付かないと思います』
つまり今の羽生は発情しているのではないか、俺はそう考えるものの誰にそれを相談すれば良いか途方に暮れていた。
そこで、同じ猫の化生と暮らしているゲンさんに聞いてみる事にしたのだ。
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