しっぽや2(ニャン)

□会見
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改めて、俺の前にミイちゃんが座り、その隣に波久礼と呼ばれた長身の男が正座する。
「波久礼、今日はゲンにご馳走になりましょう
 松阪牛のステーキとやらを追加してくれるそうですよ
 貴方お肉好きでしょ?
 良かったこと」
ホホホホホ、とミイちゃんが笑う。
波久礼は先程とは打って変わって恐縮した様子で
「私が狼犬であると、何故わかったのですか?
 確かに私は、98%狼の血が入った狼犬です」
そう聞いてきた。
料亭の者に料理を運ぶよう指示すると
「俺は犬の化生なら見慣れてるからね、犬科の化生だけど、犬じゃない事はすぐにわかったよ
 でも狐や狸って感じじゃないし、狼かなって
 かといって、野生の狼が化生するとは思えない
 さっきも言ったように、ペットとして飼育されてたなら、狼犬の可能性の方が高いんだ」
俺は笑ってそう言った。
「恐れ入りました!」
波久礼が深々と頭を下げる。

「長瀞、貴方の飼い主は聡いお方ですね」
ミイちゃんは優しい目でナガトを見た。
「あ、でも、ミイちゃんの正体はわかんないや
 狼は女性上位だから、こんなデカい狼犬が従ってるって事は、動物園とかで飼われてた狼かと思ってたんだけど
 狼にしちゃ小柄だ
 でも、犬って感じじゃない
 ディンゴやジャッカルが化生する事ってあるのか?
 顔立ちは日本人的なんだよな…
 小柄の狼…亜種…?
 …まさか?!」
さすがに、俺は自分の考えを否定する。
それは、とても有り得ないような考えであったからだ。
「ほんに、聡いお方だ
 貴方の想像通りです
 私は日本狼の化生にございます
 野生の狼が化生する事も、あるのでございますよ」
ミイちゃんはフフッと笑った。
「大真口(おおまぐち)…真口の神!」
俺の目の前にいる少女は、単なる化生ではない。
それは既に神の域に達している存在なのだ。
俺はさすがに畏敬の念を感じ、膝を改めた。

「私の方も謎解きをひとつ
 ゲンが長瀞の記憶の中で私を見たのは、偶然ではありません
 あの場所は死の縁に近い隧道の入り口
 貴方は死の縁を覗き見た事があるのですね
 だから長瀞の記憶にあったあの場所で、私の存在を感じる事が出来たのです」
ミイちゃんの言葉に、俺が子供の頃病気だった事を知っているナガトがハッとした顔で見つめてくる。
俺は堅い顔で頷くしかなかった。

「さあさあ、そんなに畏まらず、ゲンの言う通り、難しい話はご飯をいただいてからにしましょう」
ミイちゃんの言葉で、俺達は運ばれ始めている皿に手を付けた。
波久礼は松阪牛のステーキに感動し、さっきより俺に敬意を払ってくれた。

『…うん
犬って、こーゆーとこ、単純で可愛い…』


「さて、私の資産をどういたしたいのですか?」
食後のお茶を飲みながら、ミイちゃんが単刀直入にそう聞いてきた。
「貴女の資産で、高層マンションを建てて欲しいのです
 で、その管理を、俺の不動産会社にやらせてください」
俺も、単刀直入にそう切り出した。
「高層マンション?それは、安くない買い物ですね」
ミイちゃんは思案顔になる。
「土地の目星はつけてあります
 しっぽやの事務所が入っているテナントビルから、徒歩5分くらいのとこにある工場倉庫が移転するんですよ
 あの広さがあれば、マンションを建てるには十分です
 高層マンションとなると付近住民から反対運動が起こるから、それもまた、貴女の資産で抑え込んで欲しいな、と思ってます」
俺は、軽くそう言ってみる。
さすがに、側で聞いていた波久礼の顔が険しく歪んだ。
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