しっぽや2(ニャン)

□会見
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side〈GEN〉

俺、大野 原(おおの げん)がナガト(本名 長瀞)という化生と出会って、6年以上の時が過ぎた。
俺は大学在学中から親父の経営する不動産会社を手伝い、今年やっと独立するメドが付いたところであった。
知れば知るほど、俺は化生という存在の不思議に魅力される。
人に未練を残し、人の役に立ちたいと思いながら死んでいった動物(主にペット達)が獣としての輪廻の輪から外れ、人の姿を模した『化生』という存在に生まれ変わるのだ。

俺の飼い猫、という取り扱いのナガトはチンチラシルバーの化生である。
見た目は20代中頃、身長は170cmそこそこで、173cmの俺と大して変わらない。
大変美しい顔立ちに、腰まである長い銀交じりの白髪が特徴的だ。
普段は白いスーツを颯爽と着こなしている。
パッと見、ヴィジュアル系バンドをやっていそうであるが、ペット探偵などをやっていた。
ナガトの所属するペット探偵『しっぽや』なる場所は、所員が全員化生なのだ。
どうも化生の元締めみたいな人がいて、その人(化生?)の援助で成り立っている組織らしい。
その実態はナガト自身も、あまり詳しくはわかってないみたいであった。

俺とナガトは今、一般のマンションの一室を借りて同棲している。
周囲には、普通に(?)ゲイカップルだと思わせるよう振る舞っていた。
挨拶はキチンとし、ゴミ出しのルールは守り、集会にも参加する。
多少偏見の目はあるが、概ね周囲とは上手くやっていた。
「いいかナガト、この辺の奥さん達に
 『お綺麗ですね』
 とか言われたら
 『朝、夕のひげ剃りと、ムダ毛の処理が大変なんです』
 って言っとけよ
 その美貌を保つために、大変な努力をしている事をアピールするんだ
 化粧品とか、どこのメーカーを使ってるか聞かれたら
 『男性用なので、女性の繊細な肌にはあわないと思います』
 つって、上手くカワすんだぞ」
実際には何の努力もしていないナガトにそう教えると、彼は神妙な顔をして頷いた。
基本、ナガトは俺の言う事に逆らわない。
必ず俺の言った事をやり遂げようとする。
化生達がよく言っている
『人の役に立ちたい』
そんな思いがいじらしく、俺は益々ナガトの事が可愛くなるのであった。

俺が独立出来るまで色々と根回ししておいたため、新しい職場(まあ、親父の不動産会社の支店なのだが…)は、しっぽや事務所が入っているテナントビルの1階を押さえる事が出来た。
今日はこのビルの持ち主である化生の元締めと初顔合わせをする事になっているのだ。
ナガトは朝から落ち着かず
「もし、三峰様がゲンの事を気に入らなくても、私は一生貴方と共にあります」
とか何とか、健気な事を言っていた。

会見場所は政治家も利用するような高級料亭を手配しておいた。
会話の機密性を保たせるためであると共に、多少の人目があれば相手も危害を加えることはしてこないだろう、そんな思いもあった。
もっとも、相手のバックについている存在によっては、逆に俺1人処分するには都合の良い場所に早変わりしてしまいそうであったのだが…

俺は、今日ばかりはキチンとスーツを着て、いつもの丸サングラスはかけず、料亭の座敷に正座して相手が来るのを待っていた。
そんな俺の横には、緊張した面もちのナガトが座っている。
「ナガト、その『三峰様』って奴は、人に対してそんなに攻撃的なのか?」
俺が苦笑して聞くと
「そのような事はございません!
 しかし、今日のゲンの提案を聞いてどう思われるか…」
ナガトは浮かない顔をしていた。
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