しっぽや2(ニャン)

□捜索依頼〈タロー〉
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その雑木林は、依頼のあった家から15分ほど離れた場所にあった。
小さいとは言え木がそれなりに密集しており、奥までは見渡せない。
「行ってみます」
私が木々の間に入り込むと
「あ、待てよ、俺も行くって!」
慌ててゲンも付いてくる。
すぐに
『猫だな?猫だ!このバカ猫め!』
そんな攻撃的な思考が襲ってきた。
と同時に、キャンキャンと吠える犬の声が聞こえてくる。
「あれ?犬の声だ」
ゲンが辺りに注意を払う。
少し進むと、茶色の犬が姿を現した。
「あっちゃ〜」
ゲンがわざとらしく手で頭を押さえる。
首輪に付いている鎖が木に絡まって身動きとれない状態の柴犬が、こちらに向かって激しく吠えたてていたのだ。

「これじゃ、帰ってこれないはずだ
 待ってろ、今外してやるから」
ゲンはそう言うものの、私という猫に気が付いた犬は興奮しており危険な状態であった。
私はその剣幕に足が竦んでしまう。
普段、黒谷や白久といった穏やかな犬と接しているため忘れがちになるが、本来猫と犬は相容れない事が多いのだ。
「待ってゲン、素手では危ない、これで押さえて」
私は上着を脱いで、ゲンに手渡した。
ゲンがためらった顔をするので
「興奮しているから、私より顔見知りのゲンの方がまだ確保出来そうです
 上着の替えはありますから、貴方が怪我をしない方を優先してください
 すみませんが、お願いします」
そう言って後押しする。

「…わかった」
ゲンはそろそろと近寄ると上着で犬を包み、鎖を外す作業に取りかかった。
ビリビリと、犬が上着を食いちぎる音が響く。
「っとに、こいつ、子犬の時さんざん遊んでやったろーが!」
ゲンは文句を言いながら、何とか木に巻きついた鎖を外す事に成功した。
犬の口に上着を巻きつけ、ゲンが抱っこして私達は飼い主の家に向かった。
『プー、クスクス、あいつバッカみたい』
帰り道、そんな猫の思考にバカにされ、犬は更にいきり立ってゲンの腕の中でもがいていた。

何とか犬を飼い主の元に連れて行き成功報酬を受け取ると、私はクタクタになってしまった。
そんな私を見かねたのか
「少し俺の家で休んでく?
 誰もいないから大したもてなし出来ないけど
 ついでに、マリちゃんにも会っていってよ」
ゲンがそう申し出てくれた。
私はありがたく甘える事にする。

ゲンの家の玄関に入ると、猫達が偵察にやって来た。
「え?何だ、こいつら
 いつもお客が来ると、押し入れ直行で出てきやしないのに」
訝しむゲンをよそに、彼らは侵入者である私のチェックを済ませると、バラバラとお気に入りの場所へ散っていった。
マリさんにツンとした態度で
『ゲンちゃんは、あたしの飼い主なんだからね』
そう言われ、私はドキッとしてしまう。

「適当に座ってて、今、温かいもんでも淹れてくるから」
ゲンはそう言うと、部屋を出て行った。
私は以前の飼い主以外の人間の部屋に入った事が無かったので、物珍しくてキョロキョロと辺りを見回してしまう。
『ここで、ゲンは暮らしてるんだ…』
そう思うだけで、この空間が愛しく感じられた。
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