しっぽや2(ニャン)

□捜索依頼〈タロー〉
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side〈NAGATORO〉

一緒に食事をした数日後、事務所に来てくれたゲンに、私はどんな顔をすれば良いのかわからなかった。
ゲンは敏感に私の変化を感じ取ったようで
「ナガト、俺の病気の事、詳しく知っちゃった?
 あん時クールだと思ってたけど、もしかして、よくわかってなかったんだろ?
 気にすることないんだ、もう治ってんだから」
ゲンは笑ってそう言ってくれる。
その笑顔を見て、私はハッキリとゲンに飼ってもらいたいと感じていた。
ゲンの側に居たい、ゲンの役に立ちたい、理屈ではなく魂がそれを欲している。
これが、飼って欲しい方と巡り会えた感覚なのだと、私は初めて気が付いた。

「いやー、昨日は季節はずれの凄い雷が鳴ってたじゃん?
 あれに隣の家の犬が驚いて逃げちゃってさ、今日はその捜索を依頼しに来たんだ
 俺の独断じゃなく、隣りん家のオバチャンに頼まれた正式な依頼だからな
 ナガトは猫専門なんだよね
 ここ誰か、犬捜索のエキスパートっている?
 あ、ちなみに、逃げた犬は柴犬のタロー君でっす」
ゲンはいつものように少しおどけてそんな事を言った。
「柴か…小型犬だけど和犬だね、シロ、たまには働き」
黒谷の言葉の途中で
「いえ、私が参ります」
気が付くと、私はそう口にしていた。
ゲンも黒谷も驚いた顔で私を見るが、私の決心は揺るがなかった。

ゲンと一緒に事務所を出て、依頼のあった犬を飼っている家へと向かう。
「ナガト、大丈夫?
 俺が持ってきた仕事だからって、無理しなくて良いんだぜ?」
少し心配そうなゲンに
「平気ですよ、でも、手伝っていただけると嬉しいです」
私はそうお願いしてみる。
少しでも長く、ゲンと一緒にいたかった。
「よし!今日は自主休講にすっか!」
ゲンはニッコリ笑ってくれた。

「それでは、こちらの家を起点に捜索を開始します」
実は犬探しは初めてであったが、私はそれを顔には出さず犬を飼っていた家を後にする。
犬の想念を追うのは、猫の私には難しい。
犬は行動範囲が広いため、追い切れないのだ。
私はとりあえず、近くにいる猫達に情報を求める事にした。

『この家で飼われていた茶色の犬を知りませんか?』
私の問いに
『あいつ、いっつも吠えてるんだぜ、犬ってほんとバカ』
『ここの犬より、あっちの角にいる犬の方がバカ』
『あいつ、邪魔なのよねー、今日、集会開きたいのに』
『早くどっか行けば良いのよ、あいつ、五月蝿いったらありゃしない』
猫達のそんな取り止めのない思考が答えてくる。
『?集会の邪魔?
 まだこの辺りにいるのか?』
考え込む私に、ゲンが心配そうな顔を向ける。

『集会所はどこですか?』
私はゲンには何も言わず、再度猫達の思考に波長を合わせた。
『グラウンド、広いとこ』
『男はバカね、私達はそんなとこじゃやらないわ』
『木がいっぱいあるとこ、ネズミがいるとこ』
『こないだ、ウサギを見たの!何とか捕れないかしら?』
また、取り止めのない思考の返事がきた。

「ゲン、この辺で野ウサギがいる場所はありますか?」
私の唐突な問いかけに
「野ウサギ?一応この辺、住宅街だぜ?
 あ、でも、まてよ…
 少年野球のグラウンドがある横に、小さい雑木林があったな
 こないだその辺りで、ウサギを見たって騒いでる小学生とすれ違ったっけ」
ゲンは考え込みながらそう教えてくれた。
「案内してください!」
私の剣幕に驚きつつも
「おう、こっちだ」
ゲンは先に立って歩き出した。
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