しっぽや2(ニャン)

□陽気な隣人
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コンコン

ノックの後に入ってきたのは、羽生だった。
黒いスーツを着ているせいか、最近はここの所員として様になっているように感じられる。
「ゲンちゃん、俺、1人でちゃんとお使いしてこれたよ!
 持ち帰りナミモリ2個とオオモリ2個、ベニショウガも卵も付けてもらった!
 偉い?」
ビニール袋を手にした羽生は、得意満面だ。
「ああ、偉い偉い、羽生はこんなに小さいのに凄いな!賢いな!」
大野さんは、優しく羽生の頭を撫でる。
「では、お茶を煎れましょうか」
そう言って白久が所員控え室に入っていく。
「荒木、今日のお昼は簡単な物で悪いが、羽生の買ってきてくれた弁当なんだ
 これも社会勉強だからさ」
黒谷が所長机の椅子から、ソファーに移動してくる。

「はい、デカワンコちゃん達は大盛、羽生と少年は並ね
 あ、少年も大盛が良かった?」
大野さんが応接セットのテーブルに持ち帰りの牛丼を並べていく。
「並で良いです
 って、大野さんの分は?」
牛丼が4個しかないことに気付いた俺が言うと
「俺の事は『ゲン』で良いよ、荒木少年
 俺の方が年上過ぎて呼び捨てにはし辛いかな?
 なら『ゲンさん』とかな
 これだと大工みたいで、俺的には何かビミョーなんだけどさ
 あ、荒木少年にも後20年経てば分かる!
 こーゆー物は、俺のような年寄りには重すぎるのだ!
 オジサンはお茶があれば、何もいらないのよ」
大野さん、ゲンさんはそう言うと白久からお茶を受け取り口をつけた。
「そんな、年寄りって程じゃないでしょ」
俺が苦笑すると
「白久、お前の飼い主は優しいなー」
ゲンさんは、おどけてしみじみとそう言った。

「はい、卵割って、殻が入らないよう気を付けてな
 おお、上手に割れたね、羽生は凄い
 紅生姜はお好みで
 卵と一緒にかき回せば、そんなに辛くないから食べてみるか?
 味の『アクセント』ってのになるんだよ」
ゲンさんは、羽生に牛丼の食べ方を教えていた。
羽生はすっかりゲンさんに懐いていて、真剣に手解きを受けていた。

「きちんと箸が持てるようになったのかい?
 羽生は素晴らしいね
 早く大きくなって、中川ちゃんに良い思いさせてやれよ」
ゲンさんの言葉に
「え?中川って、中川先生の事?
 ゲンさん知ってるの?」
俺は思わずそう聞いていた。
「ああ、うちのお客さんだ
 あいつ、熱血教師だね
 俺が高校生の頃、あんな人に教えてもらえてたら楽しかったろうなー
 俺ん時は学生安保でブイブイ言わせてた革命志士の先生とかいたから、それはそれで楽しかったけどさ
 火炎瓶の作り方、とか、何気に教えてくれたりしてよ」
ゲンさんは楽しそうに笑う。
「中川様は今、羽生と一緒に影森マンションで暮らしているのですよ
 あのマンションを管理しているのは、ゲン様の会社なのです」
白久がそう教えてくれた。
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