しっぽや2(ニャン)

□捜索依頼〈サトシ〉報告書
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「授業をしていただけるのであれば、家賃は格安にいたします
 本当は只でもよろしいのですが『世間体』と言うものがあるとか
 人の世はややこしいことばかりですね
 『訳あり物件に格安で住んでいて、時折趣味の仲間が集まっている』ということにしておけ、と不動産屋が言っておりました
 すいません、僕にはよくわからなくて」
黒谷が困ったように頭を下げる。
もちろん、私にも意味はよくわからないけれど
「この事務所の下の階に不動産屋が入っておりますので、詳しくはそちらにお尋ねください
 こちらの関係者なので、良いようにやってくれるはずです
 影森マンションはペット可物件にございます
 家族向けの部屋なので、誰かと一緒に暮らすことも、可能なのですよ」
そう、中川様にお伝えする。

中川様はハッとした顔を羽生に向け、それから私を見ると
「じゃあ、そこに引っ越せば、羽生と暮らせるんですね」
明るい顔をしてそう言った。
羽生はまだ状況が飲み込めず、キョトンとした顔をしている。
「羽生のこと、よろしくお願いします」
頭を下げる黒谷と私に
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
中川様も、ペコペコと頭を下げてきた。

「羽生、すぐに中川様と一緒に暮らせるようになりますよ」
私がそう言うと、やっと羽生にも状況が飲み込めてきたようだ。
「サトシと、ずっと一緒に居られるの?」
期待に満ちた顔で、黒谷と私の顔を見比べる。
「中川様さえよろしければ、来週中にでも越してきていただけるよう手配しましょう
 羽生、中川様の言うことを聞いて、きちんと勉強しなさい
 中川様のお役に立つためには、まず日常生活のルールや、字を覚えなければね」
私の言葉に
「うん!俺、サトシの言うこと、ちゃんと聞くよ!」
羽生は満面の笑みで答えるのであった。

「いやー、羽生のお守りを代わってもらえるのは助かります
 こいつ、まだチビで甘えっこだから顔の側で寝たがって、胸の上にのってくるから、一緒に寝てると苦しくて」
黒谷が少しおどけたように言うと、中川様は
「一緒に寝てるんですか」
顔を赤らめてそう尋ねた。
黒谷に目配せされた私は中川様の側に移動すると、耳元に
「羽生は化生する直前の世で発情期がくる前に死んでしまったので、なかなか自分の体の変化に気が付かないと思います
 まだ先の話になるでしょうが、中川様さえお嫌でなければ契ってあげてください
 私達は飼い主と契る事を、何よりの誉れと感じておりますので」
そう、小声で囁いた。

「契るって…」
中川様は、真っ赤になって言いよどむ。
「何?」
羽生はそんな中川様の顔を、不思議そうに眺めている。
「そのうちわかるよ
 準備が整うまで、もう少しクロのところに居なさい」
私はそんな羽生の髪を優しく撫でた。
羽生に不安そうな顔を向けられ
「大丈夫、すぐ迎えに行くよ
 今度はずっと一緒に暮らそう」
中川様は赤くなったまま、安心させるように力強く頷いてみせる。
羽生は甘えるように中川様に額を擦り付けて
「うん!ずっと、ずっと一緒に居ようね!」
嬉しそうにそう言った。


本当に、羽生は良い人に飼っていただけたと、私は心からそれを祝福するのであった。


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