しっぽや2(ニャン)

□捜索依頼〈サトシ〉報告書
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side〈SHIROKU〉

しっぽやの新入り、羽生の飼い主が決まった。
私の飼い主、荒木が羽生の化生直前の飼い主を見つけ出してくれたのだ。
それは中川様という、荒木が通う高校の教師であった。
羽生と巡り会えたその日、中川様は仕事の帰りにしっぽやの事務所に来てくださった。
まだ自分の置かれている状況がうまく飲み込めていない顔をしているが、それでも応接セットのソファーに腰掛け、私と黒谷の話を熱心に聞いてくれている。
その膝の上には羽生が陣取り、ピッタリと身を寄せていた。
無意識なのであろうか、中川様はそんな羽生の頭を優しく撫でていた。

「化生…そんな存在が居るんですね」
中川様は感慨深げに呟いた。
「俺はハニー、っと、羽生には恨まれているとずっと思ってました
 無知な子供が命をオモチャにしてしまったと、後悔してばかりで…
 輪廻の輪から外れてまで、人となって共に有りたいと思って貰えていたなんて、本当に驚いております」
中川様に笑顔を向けられ、羽生も笑顔を返す。
もしも羽生が猫の体であれば、部屋中にのどを鳴らす音が響き渡っていたことだろう。

「その、羽生を飼ってやりたいのですが、俺の今住んでいるアパートはペット禁止なんですよ
 いや、今の羽生は猫ではないけど、実はあそこ、独身者専用アパートなんです
 俺の職業は知られているので、こんな少年と一緒に暮らす訳にはいかなくて
 もう少し給料が上がって、広いアパートに引っ越せるまでこちらで預かって貰えないでしょうか?」
中川様がそう言うと、羽生は悲しそうな顔になった。
「せっかく人になったのに、それでもサトシと暮らせないの?」
中川様は羽生を安心させるよう、その目を覗き込み
「ごめんな、必ず一緒に暮らせるよう、俺、頑張って働いてお金貯めるから
 それまで少しの間、待っててくれな」
優しく話しかけた。

「ひとつ、こちらからもお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
黒谷が改まって中川様に問いかける。
実は、中川様の職業が判明した時から、黒谷と私で考えていたことがあるのだ。
「僕達は人を模していても、なかなか人の世の常識とやらが理解出来ません
 それどころか、読み書きが覚束ない者も多いのです
 それでは、飼い主のお役に立つのも難しいでしょう
 僕達に『人の世』というものを教える教師になっていただきたいのですが、どうでしょうか」
頭を下げる黒谷に中川様は
「空いた時間で良ければ、それくらいお安いご用ですよ」
そう、快く請け負ってくれた。
黒谷と私はホッとして顔を見合わせる。

「そうであれば、教室として使用出来る部屋があった方が都合が良いのです
 この近くに僕達が暮らしている『影森マンション』があります
 最上階は職員寮として使っておりますが、下の階は一般の方にもお貸ししているのです
 住居を影森マンションに移していただけないでしょうか?
 家族向けの4部屋タイプが空いておりますのでそこに越してきて、その1室を教室とし学校のようなものを開いていただければ、と考えております」

黒谷の提案に
「影森マンションって、そこの大きな建物のことですよね?
 俺の給料では、とても家賃を払い切れません」
中川様は慌てて手を振ってみせた。
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