しっぽや2(ニャン)

□捜索依頼〈サトシ〉
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「ニンゲン…ニンゲンに会いたかった…」
羽生が俺を見ながらそう呟いた。
「そうだ、俺、ニンゲンに会わなきゃ
 えっと、ニンゲンだけど怖くないの
 そう、サトシはニンゲンだけど、怖くないんだ
 俺、サトシに会いたい!」
「荒木と会った事が刺激となって、少し記憶を取り戻したようです」
白久が頷いてそう言った。
羽生は黒谷の膝から飛び降りると俺に近寄り
「アラキから良い匂いがする、優しい匂い、サトシの匂いだ」
そう言って俺の背中に顔を押し付ける。
「え?サトシって誰?」
俺は慌ててそう言った。

「荒木、こいつの言う『サトシ』って人間探すの手伝ってやってくれないか?
 多分、荒木が会ったことのある者の中にいるはずなんだ
 羽生は、その残り香に反応してる
 ちゃんと謝礼は出すから、頼むよ」
黒谷が頭を下げると
「私からもお願いします
 私に出来る事であれば、何でもお手伝いしますので」
白久も深々と頭を下げた。
「ええっ?俺そんなのしたこと無いし、わかんないよ」
俺は断ろうとするものの、縋るような目で見つめてくる羽生の視線に負け
「…見つけられなくても、勘弁な」
やんわりと肯定してしまっていた。

こうして俺はペット探偵に、人捜しを依頼されることとなったのであった。



今日は親の帰りが遅いので、昼食だけでなく夕飯も白久と一緒に食べた。
白久の部屋で、白久の手料を食べる。
俺にとってそれは、白久と過ごせる大事な時間であった。
羽生も来たがったのだが
「荒木はシロの飼い主なんだよ
 あんまり馴れ馴れしくすると、シロにのどぶえ食い千切られるぞ」
と黒谷が脅したため、怯えた羽生はすんなり引き下がった。

白久が作ってくれた夕飯(煮物、ブリ照り焼き、ヒジキサラダ等、母さんが作るよりバランスの良いメニューだ…)は、とても美味しかった。
「白久、料理上手いんだね」
俺が感心して言うと
「荒木に食べていただきたくて、料理の得意な者に教わったのです」
白久は嬉しそうに答えた。

後片付けを終え、焙じ茶を飲みながら一息付くと
「さっき、羽生に焼き餅焼いてた?」
俺は白久に聞いてみる。
「目下の者に対して、そのような気持ちは了見が狭いとは思いますが…
 荒木が羽生を撫でているのを見ると、胸の辺りに何だかモヤモヤとした気持ちが広がり『荒木はやはり猫の方が好きなのではないか』と、不安を感じてしまいます
 申し訳ありません」
白久は恥じるように、そんな言葉を口にした。
「俺も」
白久が羽生を膝に乗せているのを見た時に感じた気持ちは、嫉妬だった。

俺は白久の側に行き、そっと唇を合わせ
「ごめん、俺、今は白久が1番好きだからね」
確認するように、事務所で言った事を繰り返し伝えた。
「荒木…」
白久は俺を抱き締めて、深く唇を合わせてきた。
舌を絡め合う湿った音が部屋に響く。
ゾクゾクするような感覚に耐えきれず
「帰る前に、して…」
俺はそんな大胆な事を言ってしまう。
「はい」
白久は嬉しそうに頷くと、俺を抱き上げてベッドまで運んでくれた。

白久が顔中にキスの雨を降らせる。
『これって、犬だった時の名残なのかな』
以前見せてくれた映像を思い出し微笑ましい気分になるが、白久の手が体の中心に伸びていくと、そんな気持ちは消えて激しい欲望に襲われた。
その手は、制服の上から中心に触れ、じらすように輪郭をなぞっていく。
俺はたまらずに、白久の手に自身を押し付けるよう、腰を動かしていた。

白久が片手で器用にベルトを外し、直にそっと触れてくると
「あっ…、白久…」
自然と甘い悲鳴が口をついて出てしまう。
白久は悲鳴をふさぐように唇を合わせてくる。
それでも
「ん…はぁ…」
重ねた唇の間からは、甘い吐息が止まらなかった。

俺の制服を脱がせ、自分もスーツを脱ぐと、白久はその逞しい体を重ねてくる。
『和犬ってガッチリしてるし、白久ってけっこー着痩せするんだよな』
俺はその体に抱き締められ、更に欲望が加速していくのを自覚した。

そしてそのまま、俺達は甘い一時を過ごすのであった。
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