しっぽや5(go)
□春休み・ハッピーラッキーデート〈 side A 〉
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ベランダを片付け室内にプランター置き場用のトレイを置いて汚れた手を洗い、やっと私達は一息付くために座ることが出来た。
「一仕事終えた、って達成感あるなー
満足したらお腹空いて来ちゃった」
荒木の言葉で時計を見ると、もうお昼をだいぶ過ぎた時間になっている。
「有り合わせで良ければ、簡単な物を作ります」
飼い主に言われて自分も空腹であることに気が付いた。
「うーん、白久の料理も魅力的だけど、さっき貰ったカップラーメンが気になってさ
QUOカード入ってたらいいな、って
食べてみない?」
「良いですね、岩月様達にちなみ卵を落として月見ラーメンにいたしましょう
ラーメンだけでは足りないので、冷凍ご飯を解凍して最後にスープをかけて食べようと思いますが、荒木もいかがですか」
「俺もご飯欲しい!炭水化物ばっかだけど、今日は働いたもんね」
「夕飯に野菜を多めにとって帳尻を合わせれば大丈夫ですよ」
私達は笑いながら遅いランチの準備を開始した。
薬缶を火にかけ、ご飯を解凍する。
荒木は私がテーブルに戻るまで、カップラーメンのフタを開けずに待っていてくれた。
「一緒に確認したいじゃん」
「当たっていると良いですね」
フタの説明を見ていた荒木が
「これワンタン麺なんだけど、エビワンタンが入ってるんだって
月さん、それでわざわざ俺にくれたのかな」
少し驚いた声を出した。
「それもあると思いますよ
最近のカップラーメンは、本当に色々な種類がありますね
エビ味の物があるか、今度私もチェックしてみます」
荒木のために何かを選べることは、とても心躍ることであった。
荒木が1個目のフタを慎重に剥がし中をのぞき込む。
「ダメだ、それらしい物は入ってないや
こーゆーのって、何万個も作られるんだろうし、そうそう当たらないよね」
スープやかやくの小袋を取り出して開け、カップに入れていく。
2個目のフタを剥がし小袋を取り出そうとしていた荒木の動きが止まった。
「何か袋が多い?これって液体スープも入ってるの?
さっきのには入ってなかったよ、不備だったのかも」
少しがっかりしたような荒木の声が、取り出した小袋を見てすぐに興奮したものになる。
「これ、QUOカードだ!凄い、当たってる!
月さんにお礼返しが出来るよ」
瞳を輝かせながら荒木は私に小袋を手渡してくれた。
それは透明なビニール袋に入っているカードだった。
カードにはドラマのワンシーンが印刷されているようだ。
公園のベンチらしき場所に座っている男の人の横に、耳が半分垂れている茶色の中型ミックス犬が寄り添っている場面だった。
「ああ、言われてみればこの方、生前のジョンに似ているかもしれません
毛色や毛の長さ、やんちゃな目元とか
当時、洋犬ミックスは珍しかったのですが、今ではジョンはかなりオーソドックスなミックス犬になりますね」
私は犬の姿の彼を思い出し、思わず笑ってしまった。
「そうなんだ」
私がカードを渡すと、荒木も改めてマジマジと絵柄を眺めていた。
「今のジョンに似てる…と言えば似てるのかな
髪の色とか似た感じだよね
月さんに渡すまでなくさないようにしなくちゃ」
荒木は財布の中にカードを丁寧にしまっていた。
それから私達は月見カップラーメンライス、というささやかながらも美味しいご馳走を食べる。
荒木と食べるカップラーメンは1人で食べる物より何倍も美味しいと感じていた。
「バジルの様子、また見に来て良い?
摘芯っていうのするんだよね、それも見てみたいな」
「花を咲かせない方が収穫量が上がる、との事でしたのでやってみます
摘芯で切り落とした部分は、ピザにのせてみましょうか
トマトとモッツァレラチーズを買って、マルゲリータを作ります」
バジルの育て方とともに、フレッシュバジルを使ったメニューも調べておいたのだ。
私の言葉で荒木はクスクス笑っている。
何か言い間違ってしまったかとオロオロしてしまうが
「バリバリの和犬からマルゲリータとかモッツァレラチーズなんて言葉が出てくるなんて、可愛くて可笑しい
色々調べてくれたんだね、ありがとう」
荒木は私を見て嬉しそうに微笑んでくれた。
その微笑みは私にとって何よりのご褒美だった。
「今日の予定は終了したから、これから自由時間だね
もう夕方だけど泊まっていくからまだ時間はあるよ、何しよっか」
飼い主の嬉しい問いに
「散歩がてら、DVDでも借りに行きますか?
あのジョンに似た犬が出てくると言うドラマ、DVDが出ていると書いてありましたのでちょっと気になりました」
私はそう答えてみる。
「俺も同じ事思ってた」
またしても気持ちが通じ合っていることを確認できて、私は幸せを感じていた。
「DVD鑑賞にはポテチとコーラも用意しないとね
さっき話してたから、ピザも食べたくなってきたな」
「今日は栄養より楽しみを優先して、好きな物を食べながら観ましょう」
私達はテーブルの上を片付けると、意気揚々と影森マンションを後にする。
私と荒木の思い出のページが増えた今日は、とても満ち足りた休日になるのであった。