しっぽや5(go)

□新たな仲間に習う未来
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「駐車場でするには、ちょっとこみいった話になりそうだな
 部屋でコーヒーでも飲みながら話そうか
 ご馳走するから、日野も一緒にどうだ?」
話の内容が気になっていた俺は、即座に頷いた。
俺達はモッチーの部屋に移動することになった。


「うちは2人用で、こじんまりしてるのが気に入ってんだ
 部屋を見に来た荒木と白久も気に入ったみたいだったぜ
 日野も黒谷と住む時、こんな感じが良いんじゃないか?
 でも黒谷はしっぽやの所長だから集まりがあんのかな?
 なら、ナリのとこみたいな広めの部屋の方が良いか」
モッチーはテーブルで豆を挽きながら説明してくれる。
俺は物珍しくてリビングを眺め回していた。
家具類は黒いものが多く落ち着いたシックな感じで、黒いレザーのソファーとセットの黒いテーブルがモッチーのワイルドさを引き立てていた。

「集まりは大抵ゲンさんのとこでやるし、武衆の奴らは空のとこに泊まるから、広くなくても大丈夫だと思う
 確かに、2人で住むには良い感じだね」
その部屋で黒谷との具体的な未来を感じることが出来て、俺のテンションは上がってしまった。

「はい、どうぞ」
モッチーが差し出してくれたカップから、コーヒーの良い香りが漂ってくる。
「浅煎りを気に入ったってソシオから聞いたんで、それにしたぜ
 煎り方で味が変わってくるんだ」
すかさずソシオが、お菓子がのった皿をカップの側に置く。
「はい、お茶請けはひろせのプチタルト
 コーヒーに合うお菓子を作ってもらったの
 ナッツのコクとキャラメルの香りがコーヒーと相性最高!
 しまった、これだけじゃ日野には足りないね
 冷凍パンケーキ、チンしてくる」
ソシオはキッチンに向かっていった。
「お構いなく」
流石にソシオの反応が恥ずかしく、俺は赤くなりながらモッチーを見る。
「ナリからも聞いてるぜ、よく食べるバイト君がいるって
 日野のことなんだな」
彼はニヤニヤしながら俺を見て
「ソシオ、買い置きの煎餅も出してあげな」
ソシオに声をかける。
「はーい、4個くらい開けちゃおう」
ソシオの返事に、俺は更に赤くなるのだった。


「あの、モッチーってナリの友達だし、霊感とかってあるの?
 それで、危険を回避出来たとか」
俺はズバリと聞いてみた。
「いや、俺にはそんなもんはないと思う
 そりゃナリの親友やってりゃ『アレ?』って思う現象を見ることはあるけど、俺一人の時は見たことないし
 ナリには『強い』って言われてるから、そーゆーのはね除ける力でもあるのかもな」
モッチーは普通の話題のように話していた。
「俺は、その…、霊感とかある感じで…
 ナリみたいに防御できないから、今まで嫌な目に合ってきたんだ」
初めて会ったモッチーに、俺は秘密を打ち明けていた。
「そりゃ、大変だったな、不意に体調崩したりしてたか?」
「夏は特に…」
「あー、お盆があるからなー」
モッチーのその当たり前のことを話すような態度が嬉しかった。

「黒谷と会って水晶のお守り貰ってから、凄く楽になって助かってる
 黒谷がいれば守ってもらえるからもう大丈夫だって、安心したのかな」
俺はちょっとノロケてしまう。
「そう思っときな、意識すればするほど、あいつら大胆になるってナリが言ってたから」
モッチーに肯定され、俺の心が軽くなった。
「モッチーは山の『何か』に襲われて転倒したの?
 ナリは『運転技術は自分よりある』って言ってたよ」
「いや、あんときは焦ってたし誰も居なかったからスピード出し過ぎてたんだ
 風圧もあって、派手にすっ飛んだんだろ
 間抜けなことに、山道は小動物が飛び出してくるっての忘れてた
 猫や狸だったら道の真ん中で硬直するだろうし、ウサギかドブネズミ辺りだと思うぜ
 まあ、自業自得の自損事故ってやつさ
 今後は前以上に気を付けるよ」
恥ずかしそうに頭をかくモッチーを、ソシオは心配そうに見つめていた。
未知のものにも恐れを見せず現実として受け止め学び取る、ナリの言っていたモッチーの強さとは、そんなところなのではないかと思わせた。

「もうソシオを1人にしたくないからな」
彼は隣に座るソシオを抱き寄せ、その髪に優しくキスをする。
「俺もモッチーを守る
 俺が縁起の良い猫だって言うなら、全ての良い縁とモッチーを繋ぐよ」
ソシオはモッチーに抱かれながらうっとりと呟いていた。


「日野、コーヒーのおかわり飲むか?
 あんまり飲ませると、夜に寝れなくなるかな」
「いただきます、今夜は黒谷の部屋にお泊まりだから、眠れなくなっても大丈夫なんで」
俺は舌を出して答える。
「はいはい、ごちそうさま」
彼はニヤニヤ笑って返してきた。

「俺、バイクの免許取りたいんです
 今度色々教えてください」
事故った彼の運転技術をあんなに危惧していたのに、俺の口から素直にそんなお願いが出てきて自分でも驚いた。
「ああ、良いぜ」
彼は気さくに答えた後
「ソシオ、テーブルのお茶菓子がなくなってるな
 とっときの羊羹でも出すか
 これからも日野が来るんだ、今度から棚1個分お茶菓子詰め込んでおかないとな」
俺とソシオに向かって楽しそうに笑ってみせる。

彼の強さを見習いたい、俺はそう思わずにはいられないのだった。


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