しっぽや5(go)

□新たな仲間を真似る未来
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side<ARAKI>

歓迎会&合格祝いパーティーも無事に終わり、いつもの日常が戻ってきた。
日野は陸上部関係の集まりで学校に顔を出しに行ってるし、タケぽんはひろせの捜索を手伝うため一緒に外回りをしていた。
将来2人で捜索を行えるよう、猫の気配を辿る訓練中らしい。
バイト員は俺しかいないので忙しいかと思いきや、報告書も入力し終わってるし、片付ける書類もないし、掃除はタケぽんがやっていってくれた。
お茶の準備には早いため、俺はパソコンに向かい名刺のデザインをしている状態だった。
『名刺』と言ってもしっぽやの皆の分は作り終えてしまっている。
俺が今手がけているのは、ゲンさんの不動産屋の職員用の物であった。

「しっぽやのバイト中に、ゲンさんのバイトしてるみたいで申し訳ないなー
 ここにいる時間のバイト代、しっぽやから出てるのに」
所長席に座る黒谷に向けて言うと
「ゲンにはお世話になってるからね、構わないよ
 と言うか、本当はうちとゲンの店、両方のバイト代を払わないといけないんじゃないかって思ってるんだけど」
そんな答えが返ってきた。
「そこまでしてもらえるほど役に立ってる気がしないよ」
俺は思わず苦笑する。

「大学でデザインを扱ってるゼミがあったから、そこを取ってみるつもりなんだ
 そうしたら、今よりはマシなの作れるんじゃないかな
 後さ、HPどうする?
 基本は電話や来所しての依頼だけど、HPからも受け付けられると間口が広がると思うんだよね
 料金形態も明記して、ケースバイケースで追加料金有りとかさ
 もっとも、あんまり遠方の依頼は受け付けられないけど」
「HPで依頼を受けるなんて、凄い時代になったよね
 そのHPって僕達にも操作出来るかな
 依頼が入ってもそれを見れなきゃ、受け付けられないし」
黒谷は弱気な表情を見せる。
「その辺は、日野の方が詳しいかも
 スマホからも確認できれば全員が情報共有できて良いんじゃない?
 HPも最初のうちは近所の依頼のみ受け付けて、徐々に範囲を広げていくとか
 俺が免許取って大学卒業して正式な所員になれれば、足が出来るからさ
 日野も免許取りたいって言ってたし、車2台で出動すれば機動力上がるよ
 そのうち捜索所員の数が足りなくなるかも」
「何だか夢が広がるね、僕達を必要としてくれる人が沢山出来るなんて
 和銅や秩父先生は、先見の明があったみたいだ」
黒谷は感慨深そうに頷いていた。

「所員の数が増えたら、ここじゃ手狭かな
 依頼が少ない日とか、控え室がギュウギュウになりそう」
「上の階を借りれば良いさ
 桜さんや新郷が泊まり込めるように、向こうにも控え室みたいな部屋があるからね
 新郷が、決算期以外あんまり使わないって言ってたよ
 しかし、ベッドがあるから猫達に使わせたらこっちに戻ってこないかも」
悪戯っぽそうな笑顔を浮かべる黒谷に
「全員大爆睡コースまっしぐらじゃん」
俺も笑ってしまった。
「気を付けないと、シロも同じ轍(てつ)を踏むぞ」
更に笑顔を見せる黒谷に
「それは、飼い主としてよく言い聞かせておくよ」
俺は苦笑して答えるのであった。


黒谷と楽しく(?)未来の予定を話していると、机の上に置いてあるスマホが着信を告げた。
「電話だ、友達とか俺がバイト中なの知ってるのに誰だろう」
画面に表示されている名前は『原2』で、俺は少し混乱してしまった。
「ゲンさんからだ、いつもは用があるならこっちに顔出してくれるのに
 スマホいじってて、間違って押しちゃったのかな」
不思議に思いながら電話に出ると
『もしもし?荒木少年、今、大丈夫か?
 時間とれそうなら、こっちに顔出しに来てもらいたいんだ
 新しい社員証と名刺のデザインのことで相談したくてな』
ゲンさんが呑気に話しかけてきた。
一応上司である黒谷に
「ゲンさんに呼ばれたんで、ちょっと下に行ってきて良い?」
そう聞いてみる。
「どうぞ、こっちの仕事は特にないしね」
黒谷に快諾され、俺は作りかけの名刺案をプリントアウトしてクリアファイルに挟むと、それを持ってしっぽや事務所を後にした。


1階の大野原不動産のドアを開け
「こんにちは、ゲンさんに呼ばれてきました」
俺は正面のカウンターに座る女の人に声をかけた。
『不動産には縁のない学生が一人で不動産屋に入る』
最初の頃はドアを開けるたびに毎回緊張していたが、今ではすっかり慣れてしまった。
「荒木君、こんにちは」
受付のお姉さんともすっかり顔馴染みになっている。
しかしせっかく馴染んだもののお姉さんは来月には本店に移動してしまうらしく、会えるのも後数回ほどであった。

「店長なら奥にいるわよ、勝手に入っちゃって
 そうだ、得意先からドラヤキ貰ったの
 上に戻るとき、半分持って行ってね」
しっぽや事務所のお菓子の消費量を知っているお姉さんは、よく貰い物を分けてくれるのだ。
「ありがとうございます」
お礼を言って、俺は勝手知ったる店内に入っていった。
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