しっぽや5(go)

□これから始まる物語〈2〉
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しっぽやではふかやと組みながら、捜索の仕方を覚えていった。
覚えなければいけないことは山のようにある。
「現代って大変だ、犬だったときはあまり人の生活が身近じゃなかったから、当時と何が変わっているのかすらわからないよ
 皆が教えてくれて本当に助かってる、ありがとう」
控え室で僕は皆にお礼を言った。
「伊古田は飲み込みが早くて頼もしいよ、すぐ1人で捜索に出れるようになりそうだもの」
組んでいるふかやに誉められて、嬉しい気持ちになる。
「町中で大きい犬に会うとまだ怖いけど、皆、利口だね」
「最近の大型犬は、俺みたいに学校に行ってるからな
 俺の生徒だって、優秀な犬ばっかだしさ」
「犬が学校に行くなんて、凄い時代だよ
 あのお方も学校が好きって言ってた、色々教えてもらえるのが楽しいんだって」
空と話しているとお屋敷のハスキー達を思い出して懐かしくなった。

皆で話している最中、ひろせが急にソファーから立ち上がり
「そうだ、僕、今日はバケツプリン作ってみたんです
 流石に自立してくれないから、皆で掬(すく)って食べましょう
 朝に冷蔵庫に入れたので、もう十分冷えてると思いますよ
 味変用のカラメルソースと生クリームもあります」
そう言って冷蔵庫に向かって行った。
 
「バケツプリン、トノとチカにも受けそうですね
 後で作り方教えてください」
「私は器(うつわ)を用意しますか、お玉とスプーンと小鉢…
 塩気も欲しくなりそうなので、お煎餅も開けましょう」
ここの控え室は、少しでも時間があるとおやつ休憩に突入する。
1日1回、残飯の残り汁を貰っていた犬の時とは凄い違いだった。


準備をしていた白久が何かに気が付いたように顔を上げ、期待した瞳で控え室のドアを見つめだした。
程なくノックの音がして
「ちょっと早いけど、来ちゃった
 教授が急に具合悪くなって休講になったんだ」
そんな荒木の声が聞こえてきた。
白久は荒木の分の器も用意し
「せっかくなのでポテチも開けましょう、こちらの味はまだ召し上がっていないと言っていたし、後は…」
次々とお菓子を用意していた。
荒木が扉を開けて控え室に入ってくると
「荒木、良いタイミングです、今からひろせお手製のバケツプリンを食べようと準備しておりました
 ポテチやお煎餅も色々用意してみましたよ」
白久は頬を赤らめて飼い主の元に移動する。
微笑ましくも羨ましい光景だった。

「やったー!美味しそう、日野が居なくて良かった
 あいつが居たら、1人で全部食べちゃってたよ」
荒木は嬉しそうな顔でテーブルの上を見回していたが
「伊古田、どう?ここには馴れた?
 捜索の結果とか、良い感じだって聞いたよ」
僕に気が付くとそう聞いてくれた。
「ふかやが分かりやすく教えてくれるから何とか覚えてるよ
 後、白久にもこの部屋での良い寝方を教わった」
そう答えたら
「馴染んでくれて良かった」
荒木は優しい目で僕を見てくれた。

「荒木、まずはプリンだけでどうぞ」
白久に手渡された小鉢からプリンを掬い口にして
「食感がなめらかで卵の味が濃いね、美味しい
 甘さ控えめのジャムとかフルーツの爽やか系も合いそう
 タケぽんにも食べさせた?」
「はい、小さく切ったマシュマロをのせてプリントーストにアレンジしてました」
「あいつらしい自由な発想だ、2人は良いコンビだね」
荒木はそう誉めていた。
化生の飼い主は自分の化生以外にも優しくしてくれる。
それが荒木や近戸から感じる温かさなのかな、と思ったが同じように優しくても日野や遠野からは感じないのが自分でも不思議だった。


「そうだ伊古田、来月頭にうちの大学で学園祭があるんだけど、一緒に行ってみない?
 学校でやるお祭りみたいなものなんだ
 知り合い5人まで招待できるから、白久と一緒にどうかなって
 明戸も誘われてるだろ?」
「うん、最初は俺だけで様子みて、別の日に皆野とトノも誘うって言ってたよ」
「俺も日野は日を改めて誘うつもり」
せっかく荒木に誘われても、それがどんな場所だか全くわからなかった。
それに僕が先に誘われるのも皆に悪い気がする。
「伊古田、せっかくなので行ってみませんか?
 大学までの道順は覚えておりますので案内はお任せください
 お祭りなら人出も多く、飼っていただきたい方がみつかるかもしれませんよ」
荒木の飼い犬である白久に言われると、自分だけ誘われた罪悪感が少し薄らいだ。

「あの、僕なんかが行っても良いなら行ってみたいです
 でも、どんな格好をしていけば良いのかな
 お祭りなら浴衣とか?僕、持ってないから変に思われるかも」
オドオドと答えたら
「その辺は大丈夫、ウラかカズハさんにでもスタイリングして貰うから
 服は借りれば良いよ
 伊古田は細いからダブツきそうだけど、その辺は格好良くどうにかしてくれるって
 じゃあ決まり、近戸に連絡しとくよ
 後は黒谷に休みをもらって、と」
荒木はテキパキと予定を立てていく。

こうして僕は荒木が通う学校のお祭りに行ってみることになったのだった。


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