しっぽや5(go)

□これから始まる物語〈1〉
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それから伊古田の少ない荷物を片付けて、白久には双子の部屋に来てもらうようメールをした。
必要な物を持ち、伊古田も連れて移動する。
双子の部屋の扉の前でちょうど大荷物を持った遠野と遭遇した。

「トノ?何でいるんだ?今日はバイト入ってたろ」
驚く近戸に
「今朝、新入りの子にシフト変更して欲しいって言われたんだよ
 今日明日休みになるから、来てたんだ
 その旨連絡入れといたけど見てない?」
遠野も驚いた顔を向けてきた。
「あー、何かバタバタしててスマホチェックしてなかった」
近戸は慌ててスマホを取り出して確認する。
「皆野に頼まれてた買い物してきたところ、今日は新人が来るんだって?
 皆野、美味しい物食べさせたいって張り切ってたよ
 君がそうなのかな?大きいね、バスケの選手みたい
 俺は皆野の飼い主の大滝 遠野だよ、チカとは双子なんだ」
「僕、グレート・デーンの伊古田って言います
 よろしくです」
伊古田はペコリと頭を下げた。
「立ち話も何だし、入って」
遠野がドアを開けて誘ってくれる。
「お邪魔します」
俺達はゾロゾロと室内に入っていった。


「助かったよ、トノも荒木の課題手伝ってやって
 こいつ、資料揃えてやれば後は早いから」
近戸に言われて
「良いよ、引っ越しの時お世話になったもんな
 俺は何を集めればいい?」
遠野は快諾してくれる。
「お手数おかけします」
俺は恥ずかしいやら頼もしいやら、複雑な心境だった。

程なく、帰ってきた双子猫と白久は伊古田を伴い夕飯の準備に取りかかる。
その間俺は課題を進める事が出来たので、当初の予定通り終わらせる事が出来ていた。


お客がいるからと皆野が張り切ったので、夕飯が出来上がったのは9時頃だった。
「僕でも手伝えたんだよ、これ僕が巻いたの
 後、これも切ったんだ
 こんなにちゃんと料理したの初めて」
伊古田は嬉しそうに説明している。
「ありがとう、美味しそうだね
 白久もありがとう、この生春巻き、エビたっぶりで見た目にもキレイだよ」
「伊古田、初めて作ったのに凄いね
 これは明戸が焼いてくれたんだろう?焦げ目が凄く美味しそうについてる」
自分の化生も誉めておかないと後で拗ねてしまいそうだったから、俺達は料理を味わいながら感想を伝え和やかに食事を進めていった。

俺の向かいにはそっくりな顔の人間と猫が2組並んでいる。
「伊古田、近戸と遠野、そっくりだけど区別付く?」
思わず聞いてみると
「うん、気配が違うから
 でも武衆の犬達は気配が違うけど夜中とかに急に出会うと、一瞬誰だか分からなくなるんだ
 お屋敷で雑魚寝してると、ちょっと混乱する、海と陸とか似てるから
 荒木と近戸は暖かいから間違えないよ
 日野や遠野とは違う暖かさだね」
伊古田の言葉に俺はドキリトする。

『俺と近戸にだけ感じる暖かさ
 ソシオはモッチーと会う前、ナリとふかやの匂いに反応していたって聞いたぞ
 2人に残るモッチーの気配に反応したんだってナリは分析してた
 羽生も、俺の制服から中川先生の気配を嗅ぎ取ってたっけ
 明戸は俺からは何も感じ取らず、近戸の家に近づくにつれて反応してたな
 飼って欲しい人の気配の気付き方は化生それぞれなんだ
 俺と近戸にだけ反応するってことは、もしかしたら大学間系の共通の知り合いが本星?』
そう当たりを付けた俺は
「近戸、うちの冷蔵庫で水出しのアイスコーヒー作ってるんだ
 もう飲めると思うから取りに行きたいんで、付き合ってよ」
近戸に相談したくてそう誘い出す。
「荒木、私が取りに参りますよ」
立ち上がろうとする白久を制し
「白久は捜索で疲れてるから座ってて、近戸お願い」
意味ありげな視線で見つめると近戸は直ぐに察してくれてた。
「モッチーが惹いた豆で作ったんだよね、興味あるな
 明戸、ちょっと行ってくるよ」
俺と近戸は自然な感じを装いながらも素早く部屋を後にした。

「荒木、どうした?伊古田のことか?」
近戸の問いかけに頷いて、俺はさっき考えていたことを伝える。
「飼って欲しい人の気配か
 俺と荒木だけに感じる暖かさってのは、確かにそれっぽいな」
「誰の事だろう、羽生は俺の担任じゃなかった中川先生の気配に気が付いてたよ
 同じ校舎内にいるだけで知り合いでも何でもなかったら、見当も付かないか」
それに気が付くと、とたんに飼い主探しが難問に思えてきた。
「いや、俺と荒木、共通のゼミを取ってる知り合いに絞れると思う
 もしくは学食で会う奴かな
 俺達が一緒に行動してるときに会う人間が当たりだろう」
「なら、少しは絞り込めるか
 でも伊古田に会わせるきっかけがないよ、近戸と明戸は白パンが引き合わせてくれたから会えたんだ
 そんな奇跡、また起こるかな」
俺達は頭を抱えてしまう。

「何とか理由を付けて、伊古田を大学に連れて行こう
 自分で探してもらった方が早い、結局羽生も自分で中川先生を見つけたんだし」
「2人でフォローすれば構内での行動は何とかなるだろう、ただ、何度も使える手じゃないから短期決戦で行くしかないな」
俺達はそう決意する。


こうして『伊古田を大学に連れて行こうプロジェクト』が始動するのだった。


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