しっぽや5(go)

□変わるもの変わらないもの
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白久の部屋にお泊まり宣言をした土曜日、しっぽや業務終了後に俺達はファミレスで夕飯を食べ、一緒に影森マンションに帰って行った。
エレベーターに暗証番号を打ち込んで、白久の部屋のドアの鍵を開ける。
それらの行為がとても久し振りな気がしたが、1ヶ月前までは当たり前のように行っていたことだった。

初めて白久の部屋に入った時は機能的だけど無機質なウィークリーマンションの様だと思ったけれど、今は自分の部屋よりもなじんだ場所に感じられる。
変わらない白久の部屋だが、俺の私物が入れてある棚と本棚の位置が動いていた。
以前は隙間が多かった本棚の中には秩父先生おさがりの医学書全集が変わらずに入っていたが、料理や栄養学の本、植物の育て方の本、犬や猫の本が増えて隙間が埋まっている。
「スマホで調べられるのですが、紙の本の方がなじみ深くて」
本棚を見る俺に白久が苦笑気味の声をかけてきた。
「白久の元の飼い主さんも、沢山本を持ってたみたいだもんね
 あの時代の書物って貴重品だったんじゃない?
 書生みたいな格好してたし、学者さんの助手とかやってたのかな」
白久はそれを模倣して、俺に会うまでの時間を過ごしてきたのだ。
その習慣はいきなり変えられはしないだろう。
前の飼い主の話をすると、白久はまだばつの悪そうな顔をする。
「この辺は俺のために買った本だろ?
 こっちは捜索の参考?犬種や猫種を言われても外見知らなかったら、仕事になんないもんね
 白久はいつも一生懸命だ」
俺は気にしていない感じで白久を褒め、彼に抱きついた。
それから大きく変わった壁を見る。
壁には、高校時代の俺の制服が掛かっていた。
この場所を確保するために、棚の位置を動かしたのだ。

ついこの間まで毎日のように着ていた制服。
白久と初めて会ったときにも着ていた制服。
俺と白久の思い出が沢山つまっている制服。
それは以前の俺が変わらずに白久の側にいるような、不思議な気分にさせられる光景だった。

「ほこりを被らないよう、毎日手入れをしています
 しかし、ずっと出しっぱなしだと色褪せが早くなるとジョンに注意されました
 美術館のようなケースと照明施設があれば良かったのですが」
悩ましい白久の声に俺は笑ってしまう。
「そんな大層なものじゃないよ
 でも、確かに俺にとっても白久と出会ってからの高校生活は特別に輝いてた
 こんな風に飾ってもらえると、その象徴みたいに見えるね」
現在の白久の胸の中から過去の自分を見ているようにも見えた。

「でも、あそこの場所だと」
俺は部屋を見回して確認する。
「ベッドで横になってても見える位置じゃん」
そのことに気が付いて胸の鼓動が速まっていく。
「俺が来れなくて、寂しかった?」
「はい、けれども私は待つことが得意な犬ですから
 飼い主が来てくれるまで、ずっと待っております
 荒木だけをずっとずっと、お待ちしております」
愛犬の健気な答えに満足し
「きちんと待てが出来るお利口な愛犬には、ご褒美が必要だよね」
俺は更に力を込めて白久を抱きしめた。
「いつまでも変わらず、貴方の側におります」
白久が唇を合わせてくる。
「うん」
俺は合わせた唇の間から返事を返す。
会えなかった時間が無かったように、俺達は自然に抱き合って熱く唇を合わせていた。

「来週来れるか分からないから、今夜はいっぱいして」
キスの合間に甘えてねだると
「もちろんです、荒木に満足していただけるよう、新郷と大麻生にしっかり講義を受けました
 実践は初めてですので、後から採点をお願いします」
白久は頬を赤らめ微笑みながら俺の服を脱がせ始めた。
「そんな、百戦錬磨の化生に習わなくても…
 んん…あっ…」
白久の唇があらわになった喉から首筋をたどっていく。
押しつけられている彼の下半身はすでに固くなっている。
久しぶりに彼に触れられていると思うだけで、俺の興奮も増していき同じ反応を示していた。

着ている物を全て脱がされ、白久に抱き上げられてベッドに移動する。
白久も着ている物を脱いで俺に覆い被さってきた。
見ているだけでもドキドキする白久の身体に包まれ手や舌で全身を刺激され、俺はすぐにイきそうになってしまう。
しかし白久は俺自身の根本を強く握り込み、それを許してくれなかった。
「え?白久…何…」
一瞬戸惑う俺を、白久が貫いた。
「2人に習った技です、もう暫くご辛抱ください」
白久は俺を激しく揺さぶりながら唇を合わせ囁いた。
今まで感じたことのない様な強い欲望に身体が支配されていく。
やっとイかせてもらったときには、頭が真っ白になってしまった。

その後も白久は様々な体位で何度も俺を貫いてく。
初めての経験の連続に、俺は何度か意識を飛ばすほど激しく反応するのだった。


深夜を回り心地よく疲れ果てた俺達は、グッタリと抱き合っていた。
「白久、最初から飛ばしすぎ…」
「申し訳有りません、荒木が可愛らしく、教わったことを全て試してみたくなりました」
白久は謝りながらも、どこか満足げに答えている。
「でも、百点じゃ足りないくらい凄い良かった…」
俺は彼の胸に顔を埋め、そこにご褒美のキスをする。

「また、新しいことを習ってきます」
嬉しそうな白久の声を聞き、彼の俺に対する変わらぬ愛、むしろ深まる愛を感じ
「楽しみにしてる」
満足の眠りにおちていくのであった。


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