しっぽや5(go)

□新業務奮闘記
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「子犬はあと5匹いるの
 そっちの子は3ヶ月近いから、もう少ししたらワクチン接種して新しい飼い主さんを探し始める予定」
「ラキも、こうやって俺の所に来てくれたんだ」
弘一君はラキの実家(?)に来て、感動しているようだった。

またオバサンと一緒に違う部屋に行くと、さっきよりもっと大きくて動きもしっかりしている子犬が5匹、じゃれ合っている。
「この子達の面倒もお願いするわ、さすがにお母さん犬が疲れてきちゃってね
 このくらいの子が5匹も居るとパワフルで
 8匹生まれたときは、てんてこ舞いだったわ」
オバサンはカラカラと陽気に笑っていた。


俺達はまず犬舎の掃除をする。
子犬達が寄ってきてまとわりつくので、2人で交互に子守と掃除をしてなんとか終わらせることが出来た。
それからオバサンが作ってくれた離乳食を与えるのだが、5匹もいると食べるスピードが違うので横取りしたり、お皿をひっくり返したり大混乱だった。
『白久に説明させてからやれば良かった、って、この子達は小さくてまだ分からないかな』
やっと食べさせ終えてベトベトになった皿を回収し、また掃除をする。
母犬は黙々と食べて皿はキレイに舐めてくれたので、成犬のありがたみをつくづく感じてしまった。

お腹がいっぱいになった子犬達がウトウトし始めたので、今度はチビ達の離乳食に取りかかる。
チビ達はまだ離乳食が食べ物である、と言う認識が薄く遊び半分でちょっとだけ舐めて前足でかき回したり、さっきより大混乱の度合いが高かった。
自分たちの手をベトベトにし、何とか半分ほど舐めさせることに成功したときには既に昼の時間を大きく過ぎていた。


お昼はオバサンが用意してくれたご飯を皆でごちそうになった。
「あれって、いつも2人でやってるんですか?凄いですね!」
「めちゃくちゃ時間かかっちゃってすいません」
俺も弘一君も自分たちの手際の悪さにガックリしてしまう。
「まあ、私も旦那も慣れてるからね
 それよりも、白久さん凄いのよ
 皆いつもよりお行儀良いし、庭で白久さんと遊んだ後、大人しく寝ちゃったの
 作業が楽だったわ」
しきりに感心するオバサンの言葉にドキリとする。
「寝てました?」
恐る恐る聞くと
「皆、グッスリ、まだ寝てるみたい
 お客さんが来てハシャぎ疲れちゃったかな」
そんな答えが返ってきた。
チラリと白久を見ると、少し目が泳いでいる。
『ここの犬達に昼寝の指南(?)したんじゃ…』
そう思ったが、後の作業が楽になるなら良いのかな、と深く突っ込まないことにしておいた。


昼食の後は子犬達を庭で遊ばせることになった。
「私もご一緒します」
俺が子犬に懐かれるのが不安なのだろう、白久が宣言する。
しかし白久の不安は全くの杞憂だった。
子犬は皆、白久に貼り付いて離れなかった。
「白久の方がモテモテじゃん」
わざとらしく頬を膨らませると
「あ、いえ、この子達は化生が珍しいようです
 何でそんな姿なのか尻尾はどこだ、といった『何で何で』攻撃が凄くて
 大人の犬に対する態度や社会性を教えなければ」
白久は俺の態度に慌てながらも、子犬達の世話を焼いてあげていた。

俺と弘一君は子犬と戯れる白久を横目に、犬達のブラッシングをしている。
白久が言い含めてくれたので、大人しくブラッシングさせてくれた。
「秋田犬って、ブラッシング面積広い…」
果てない毛の海のように感じている俺に
「ラキもこれくらいですよ、毛もメチャクチャ抜けるし
 ラキがもう1匹出来そうですもん」
弘一君は手慣れた様子でブラッシングをしている。
「やっぱ、猫とは違うね
 今回俺の仕事の出来って、お金貰えるレベルじゃないや
 働くって大変だ」
思わずため息をつく俺に
「爺ちゃんが個人的に依頼した変則的業務だし、白久さんが頑張ってるから当初の予定通り1人分は払わせてくださいね
 じゃないと俺も申し訳ないです
 荒木先輩と秋田犬の世話出来て、楽しいし」
弘一君は最後の方は消えそうな声で呟いていた。



結局夕飯もご馳走になり、カズ先生に影森マンションまで送ってもらったときには10時近くになっていた。
「今日はお世話様、これ依頼料ね
 本当に1人分で良いの?」
「はい、今回自分の力不足を思い知りました、次があればもっと頑張ります」
俺は自戒の念も込めて言うと、ありがたくカズ先生から依頼料入り封筒を受け取った。

カズ先生の車を見送って、白久と部屋に帰る。
遅くなりそうだったので、泊めてもらうことにしてあったのだ。
「1番活躍したのは白久だったね、子犬達、少しお行儀良くなってたし
 俺、もっと犬のこと勉強しないと白久と一緒に仕事できないや」
「荒木と一緒に仕事はしたいですが、他の犬をあまり近づけたくはないのが本音です」
白久は少し苦笑していた。

「今も、荒木に他の犬の匂いと気配が付いていて、気持ちが落ち着きません」
白久が後ろから俺を抱きしめてくる。
「じゃあ、白久の匂いと気配に染め直してくれる?」
俺は甘えるように体に回されている白久の腕を握った。
「もちろんです」
白久が耳元で甘く囁いた。

俺達はいつものようにお互いの気配に包まれ、1日の疲れも忘れるような幸せな一夜を過ごすのであった。


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