しっぽや5(go)

□飼い主&飼い犬プチ奮闘記
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side<SIROKU>

「白久!」
ミックス犬の捜索を終え犬連れの状態で事務所に戻る私に、後ろから声がかけられた。
気配からそれが誰かはすぐにわかる。
「ふかやも捜索成功ですか」
私はそう話しかけた。
彼は犬連れではなかったが、晴れやかな顔をしているのでそうであろうと当たりをつけたのだ。
「うん、トイプードルで、もう送り届けてきた
 白久は和犬っぽいけどミックスかな?」
ふかやは私が連れている犬をのぞき込んだ。
たしかに体型は和犬の様に見えるが、耳が垂れ気味で巻尾ではなかった。

「ええ、ミックスですが和犬の血が強いのですぐに私と意志疎通してくれました
 事務所に飼い主が迎えに来てくださるので、一緒に戻るところです」
「そっか、愛されてるね
 きっと君が居なくなって、飼い主はとても心配したと思うよ
 勝手に外に出ちゃダメだからね」
ふかやに言われ、ミックス犬は反省したように頭を垂れた。
「反省しているようですから」
私が取りなすようにいうと、ふかやはまた優しく犬の頭を撫でていた。

「あ」
犬を撫でていたふかやの手が、素早く動いてジャケットのポケットからスマホを取り出した。
反応の早さからして飼い主からの連絡のようであった。
「ナリ、どうしたの?
 僕は1件仕事を終わらせて、事務所に戻る途中
 うん、モッチーとかが組み立てたキャットタワーでしょ?
 組立を見てたし僕も手伝ったから役に立てるよ
 荒木の家?ナリが迎えに来てくれるの?大丈夫、行くよ
 わかった、待ってる、じゃあねナリ、愛してる」
通話を終えたふかやを思わず凝視してしまう。

「荒木のお家に伺うんですか?」
「うん、何か、キャットタワーの組立を手伝って欲しいんだって
 僕、ヤマハとスズキ用のタワーの設置手伝ったからね
 大きいタワーだから荒木が組み立てるのは大変なんじゃないかって、ナリが言うんだ」
「私にも手伝わせてください」
ふかやは飼い主との共同作業を楽しみにしていると思ったけれど、私はたまらずにそう頼み込んでしまった。
「本当?その方が助かるかも
 あれ組み立てるの、モッチーくらい大きい人の方が良いんだよね
 ナリは荒木よりは背が高いけど、ちょっと危ないかもって思ってたんだ」
ふかやが快諾してくれてホッとする。

こうして私は急遽、荒木のお家に伺う機会を得たのだった。



ナリの運転で荒木の家まで移動する。
キャットタワーなる物を意識して見たことはなかったが、箱の写真を見るといかにも猫が好きそうな出っ張りがあり、満足そうに寝そべる猫が乗っていた。
「白久も手伝ってくれるの嬉しいな」
荒木はそう言って軽くキスをしてくれた。
「お任せください、犬は共同作業が得意だと言うことをお見せします
 ふかやと立派に組み立て上げますよ」
私のことを頼もしそうに見てくれる荒木が愛おしかった。

「俺、ちょっとカシスを部屋に閉じこめてくる
 設置はリビングにお願いします、親には言ってあるんで」
荒木はそう言い残し、2階へ上がっていった。
ナリはリビングを見回し
「ここに設置するのがよさそうかな」
箱を開けて中身を取り出し始めた。
ナリが見ている組立説明書を後ろからのぞき見るが、何だかよくわからなかった。
それはナリも同じ様で
「この説明書、ちょっと端折(はしょ)りすぎじゃない?
 多分これがここのパーツで、これがこっち、どうやってハメるのかな
 ああ、こうなるんだ、成る程
 組み立てたこと無い人には分かりにくい説明書かも、手伝いに来て正解だったな」
パーツを並べブツブツ呟いていた。
ふかやを見ると
「前に組み立てたのと違う…」
少し呆然としながらパーツを見ていた。

ナリに指示され、ふかやと2人で組み立てていく。
流石に最上部にまでは手が届かず、戻ってきた荒木に脚立を借りて作業した。
それを見上げていた荒木が
「俺と親父だけだったら、絶対無理だった…
 皆が来てくれて本当に助かったよ、ありがとう」
しきりに感謝の言葉を連発するので、慣れない作業でもやる気がわいてくる。
1時間以上かかかって、やっとタワーは完成した。

「しっかり取り付けたからね、地震が来ても安心だよ」
ナリに太鼓判を押され荒木は嬉しそうに『はい』と答え
「早速、カシスを連れてくる」
と2階に上がっていった。
荒木が抱えてきたカシスは、私の記憶の中の彼の3倍は大きい気きがした。
「バーマン並…」
ふかやとナリも軽く息を飲んでいた。

「カシス良かったな、皆がお前のために頑張ってくれたんだぞ」
荒木がカシスを離すと、一目散にソファの下に逃げ込んだ。
「すいません、こいつ本当に人見知り激しくてビビりだから」
恐縮しまくる荒木に
「猫は大抵こんな感じだよ、私たちが退散したら出てきて上ってくれるんじゃないかな
 上下運動が増えればダイエットになるよ」
ナリは優しく答えていた。

玄関先まで送ってくれた荒木が
「ちょっとだけど、仕事の後も一緒に居られて嬉しかった」
そう言って少し深いキスをしてくれる。
それだけで疲れは癒え、やり遂げた満足感で心が満たされていくのを感じていた。



1週間後。
「カシス、あのタワー気に入ったみたいだけど、まだ1番下の箱より上に乗ったこと無いんだ…」
荒木の力ない言葉で、カシスのダイエットはまだまだ先のことだと知れるのだった。


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