しっぽや5(go)

□飼い主&飼い犬プチ奮闘記
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side<ARAKI>

カズハさんにペットショップのトリマーさん達用の名刺を頼まれた俺は、3日程で試作を作ることが出来た。
カズハさん用に作ったデータが残っていたし、書く内容も決まっていたから出来たことではあったが、何よりも作っていて楽しくなってしまったのだ。
おかげで一気に作業が進んでくれた。


「これでキャットタワー貰えるって、かえって悪い気がしてきた」
しっぽや事務所で試作をプリントアウトしていると
「季節ごとに作ってみる、とかすれば良いんじゃないの?
 1回っきりでキャットタワーじゃ、向こうが割に合わないんじゃん?
 キャットタワーっていくらするのか知らないけど」
日野が後ろからのぞき込んでくる。
「大きさにもよるから一概にはいえないかな
 でも7000〜2万はすると思う」
「そっか、現物見てないし、何とも言えないか」
日野は『うーん』と唸っていた。

俺はプリントアウトした物をファイルに入れ
「修正点があるかどうか、ペットショップまで聞きに行っていいかな
 こっちの仕事は日野がいれば大丈夫だろ?」
そう黒谷に話しかける。

「黒谷じゃなく、俺に聞くべきなんじゃないの?
 この後忙しくなったら、頑張るのは俺なんだから」
日野は不満げなセリフをニヤニヤ笑いながら言ってきた。
「はいはい、ポテチ?アイス?中華まん?唐揚げ?」
「ホットスナックおまかせで」
「だってさ、黒谷」
最後に俺は黒谷に話をふった。
黒谷は直ぐに財布をとりだして
「5000円で足りますか?」
そう聞いてくる。
日野が一人で仕事をする駄賃として、俺が帰りにコンビニのホットスナックを買う流れになったことを察したのだ。
「タケぽんにも買い物行かせるんだから十分だよ」
俺は笑って答えると黒谷から受け取ったお札を自分の財布に入れ、しっぽや事務所を後にした。



名刺を作るときに本人の顔写真も使ったので、店内にいる店員さんの何人かに見覚えがあった。
カズハさんが見あたらなかったので、俺は顔だけ知っている人に
「すいません、樋口さんに名刺作成を頼まれた者です
 試作品を持ってきましたのでチェックをしてもらいたいんですが、分かる人いますか?」
そう声をかけてみた。
「え?君が作ってるの?若いのに凄いね、中学生?
 そっか、だからお金はかからないって樋口君言ってたんだ
 ちょっとまってね、店長に聞いてくるから」
相手はそう言い残し去っていった。
『すぐ大学生になるんです…』
俺の訂正は、胸の中で空しく響くのだった。


名刺のデザインは好評で、ほとんど修正点はなかった。
「それじゃ、直ぐにプリントアウトして持ってきます」
俺は張り切ってそう伝える。
「そうそう、お礼のキャットタワーだけど、あれなんだ
 1人で持って帰れる?」
店長さんが示した先には、大きな箱が置いてあった。
天上に届く高いタイプのタワーだ。
「こんなに大きいの、良いんですか?」
驚く俺に
「大きすぎて売れなかったんだよねー」
店長さんは苦笑する。
「家の車に積めるかな」
親父にでも車を出して貰おうと思っていたが、サイズ的にギリギリな感じだ。

「ナリに車出してもらう?
 あと、自分で組み立てられそりう?」
小さな子供に聞くような感じで言われたが、確かに背の低い俺や親父の手には余る気しかしなかった。
悩んでいるところにちょうどナリがやってきた。
「荒木、まだ居て良かった
 私用の名刺も頼みたいんだけど、今から追加って受け付けてくれるかな
 昨日、ふかやに名刺用の写真撮ってもらったからデータは直ぐに送れるから」
「追加は大丈夫です
 それでナリ、あの、これって…」
キャットタワーの箱と困っている俺の顔を見て
「ああ、うん、車で荒木の家まで配達するよ
 似たタイプのキャットタワー組み立てたばっかりだし、私とふかやで設置組立まで出来るからね」
ナリは安心させるように言ってくれた。

「お願いします」
「それじゃ、商談成立
 早速今日、配達する?いきなりだと親御さんに迷惑かな」
「2人とも今日も遅いし、キャットタワー貰えることは伝えてあるから大丈夫です」
とんとん拍子に話が進み、俺はホッとした。
ナリとは夕方にしっぽやまで来てもらうよう約束し、ペットショップを後にする。
帰りがけにコンビニで唐揚げやコロッケ、中華まんをガッツリ買い込み、事務所でナリ以外の名刺を仕上げると届けに行った。

再び事務所に戻ると
「荒木、私もキャットタワーとやらを組み立てるお手伝いをいたします」
捜索から戻って来ていた白久がそう言ってくれた。
きっとふかやに話を聞いて羨ましくなったのだろう。
「うん、ありがとう」
今日は白久とほとんど顔を合わせることが出来なかった俺には、仕事の後も一緒にいられるのは嬉しいことだった。


キャットタワーを持って迎えに来てくれたナリ運転の車に乗って移動しながら、今日は慌ただしかったけど充実した日だな何て思えるのだった。
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