しっぽや5(go)

□荒木奮闘記
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3時近くに白久が事務所に帰ってきた。
「白久、お疲れさま
 お昼まだでしょ?報告書は後にして、遅いけどご飯食べよう
 オレンジ弁当のおにぎりと、おかずを色々用意してあるよ」
「戻るのに時間がかかってしまい、申し訳ございませんでした
 先に召し上がっていてよろしかったのに」
白久がしょんぼりと謝ってくる。
「いいの、一緒に食べたいから
 お菓子をちょいちょい摘んでたし、働いてた白久よりはお腹空いてないよ」
俺は愛犬の頭を撫でて頬にキスをした。
寄り添って控え室に向かう俺達に
「オレンジ弁当で買い物してきたのは、俺です
 買い物だけで、3往復しました…」
タケぽんは力なく呟いていた。


おにぎりやおかずを温め直し、お湯を沸かしてスープを作る。
白久は自分でやりたがったが
「これくらいなら俺にも出来るから、白久のためにやらせて」
そう言って手伝いを断った。
俺の用意した簡単ランチを、白久は感激して美味しそうに食べ始める。
俺もおにぎりのラップを剥いで早速かぶりついた。
「やっぱ、白久と一緒に食べると美味しい」
「荒木が温めてくれるだけで、何倍も美味しくなります」
幸せなランチを堪能しながら、俺はカズハさんに仕事を頼まれたことを伝えた。

「荒木は何でも出来るのですね
 免許も取るし、大学でお勉強もなさる
 和泉のような『マルチクリエイター』とやらになれるのではないでしょうか」
「いや、免許とかクリエイティブじゃないし」
そう言いながらも、愛犬のほめ言葉は純粋に嬉しかった。


食事の後は白久に教えながら、2人で報告書の入力を行ってみた。
俺が説明したから命令に従っている気分になれるのか、たどたどしくも何とか1人で入力できるまでになってくれた。
「今後は荒木の言葉を思い出し、メモを見ながら頑張ってみます」
白久は頬を紅潮させて頷いていた。

それからタケぽんに買いに行かせた物の整理をする。
白久が手伝ってくれるので、棚の高所に楽々と物を置くことが出来て作業は捗(はかど)った。
『タケぽんみたく捜索が出来なくても、俺達、仕事上で良いコンビだよな』
そう思うだけで顔がニヤけて、充実したバイト時間を過ごすことが出来ていた。

特に依頼がこなかったため、俺達は定時より早く帰ることになった。
「昼が遅かったから、そんなにお腹空いてないね」
まだ明るい空を見上げ俺が言うと
「どこかに寄ってから帰りますか」
白久がそう聞いてくる。
マンションに帰って早く2人っきりになりたかったが、日野に言われた『運動不足』という言葉が心に引っかかっていた俺は
「ちょっと、散歩がてら遠回りして帰ろうか」
そう誘ってみる。
「はい」
白久はニコニコして頷いた。


かなり大回りして歩いていくと、土手があった。
「日野と黒谷がランニングしてるのって、この辺かな」
辺りを見回すと何人か走っている人がいた。
走ればもっと運動になるが、流石にそんな気にはなれなかった。
「歩いてるだけでも、運動にはなるよな
 ウォーキングみたいにサクサク歩いてる訳じゃないけど」
弁解するように口に出すと
「飼い主とのお散歩、楽しいです
 せっかくなのでこちらのスーパーで夕飯を買っていきませんか?
 いつもとは違う、荒木の好きな物が発見出来るかもしれませんので」
白久の誘いに頷いて、俺達は買い物をして帰ることにした。

総菜や弁当のコーナーを見ているときに、ふとタケぽんの言葉を思い出す。
「バター、作ってみようかな」
続けなければ意味は無いだろうが、今日は少しだけアクティブな気持ちになっていた。
「自分でバターが作れるんですか?」
驚く白久に
「タケぽんの受け売りだけど、やってみる
 朝食用にパン買っていこう、って失敗したらごめんね」
俺は苦笑してみせた。


部屋に帰ってペットボトルの中身を飲んで空にする。
洗った後、その中に生クリームと塩を入れて激しく振ってみた。
いつまでたっても固まらず失敗したかとガッカリする俺の手に、急に重い手応えが感じられた。
「え、固まってきた?」
「何かドロッとしたものが出来ております」
その手応えと白久の言葉に力をもらい、俺はさらに振り続ける。
手応えに変化が感じられなくなってから、ペットボトルを切って中身をザルにあけてみた。
「出来てる」
「凄いです荒木、明日の朝食は贅沢な手作りバタートーストですね」
愛犬の笑顔で疲れは吹き飛んでいった。

それから白久が作ってくれた焼きそばと買ってきた総菜で夕飯を済ませ、白久にもたれ掛かりながらテレビを見てマッタリと過ごす。
その後はシャワーを浴びて、白久との特別な時間の始まりだった。


「今日はちょっと運動した方が良いかな、って思ってるんだ
 その…俺が…上になるから、白久はあんまり動かなくて良いというか」
白久の腕に抱きしめられた状態で、俺はモジモジと口にする。
恥ずかしくて顔が熱くなっていった。
「以前、ウラに教えていただいたアレですね
 動かないようお望みなら頑張りますが、荒木が可愛らしくてどうしても身体が勝手に動いてしまうと思います
 申し訳ありません」
「いや、そんな厳密に動かないで欲しい訳じゃないから」
白久の返事に、更に顔が熱くなる。
身体もとっくに熱くなっていた。


白久の上で動いていると『運動しなくちゃ』と言う考えはすぐに消え、身体が快楽を追って勝手に反応していた。
自分の動きと突き上げてくる白久からの刺激で、前と同じように何度もイってしまった。
それはいつものように、最高に素晴らしくゴージャスな時間であった


興奮の波が去り白久の腕の中で
『少しは腹筋鍛えられたかな』
そんな色気のないことをボンヤリと考え、俺は眠りにつくのであった。


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