しっぽや5(go)

□I(アイ)の居る場所
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懐かしい友との帰還祝いパーティーと言う名の飲み会は、店の終了時刻近くまで続いた。
「いやー、盛り上がりすぎて遅くなっちまった
 また、時間作って飲もうぜ」
店の外でゲンがタクシーを3台呼んでくれる。
「深夜割り増しになるが、飲酒運転はマズいからな
 事故りでもしたら、和泉センセの名前に傷が付いちまう」
「ゲンの店だって、支店長の不祥事は本店にも問題出るだろ」
「うちが一番ダメージ少ないのかな
 ただ一生言われちゃうと思うけどね、家の近所、スピーカーオバサンみたいな人未だに多いから」
俺達はタクシーが来るまでの時間を惜しむように、語りあっていた。

「ゲンのプランで建てたマンション、住みたかったな
 本当に化生の拠点になる場所が出来上がるなんて夢みたいだ
 そこにはゴシップを嗅ぎ回る連中を、絶対に近づけたくない
 頻繁に影森マンションに出向かないことが、俺に出来る『化生の居場所を守る事』ってのがちょっと切ないな」
別れの寂しさで、つい本音がこぼれてしまった。
「帰る場所はバラバラだけど、俺達はずっと仲間で家族だ
 一緒に住んでるだけが家族じゃない」
ゲンが俺を見ながら真面目な顔になる。
「そうだよ、和泉
 僕も年1回くらいしか両親のとこには顔出さないけど、だからって遠くに感じたことはない
 会った瞬間、会わなかった時間が埋まって自然体になれる
 今は久しぶりに会った和泉に、同じ事を感じているよ
 今度は家に遊びにおいでよ、庶民のオモテナシをしてあげるから
 マスコミにバレたら、『イサマ イズミも納得の汚れ落ち、凄腕クリーニング店にお忍び来店』って書いてもらって店を宣伝してね」
岩月兄さんが悪戯っぽく笑って誘ってくれた。
「そりゃ良いな、事務所を借りる体でうちもやってもらうか
 和泉センセ向けの物件、あったかな」
ゲンも岩月兄さんの話に乗ってニヤニヤ笑っている。
「じゃあ、2人も家に遊びに来てよ
 何て書かれるかな…イサマ イズミ量産品デザイナーに転向か?!庶民を招き意見交換」
俺もそう返し、3人で爆笑した。

住んでる場所は違っていても、家族の元に帰って来れたという安らぎが俺の心に満ちていた。




深夜を回り、自宅マンションに帰り着く。
「遅くまでご苦労さまでした」
俺は請求された金額より2枚ほど多く札を渡し、タクシーを降りた。
久那を伴い正面玄関のパネルに数字を打ち込んでドアを抜けると、エレベーターに乗り込んだ。
「帰ってきたね」
久那が優しく言葉をかけてくれる。
「ああ、引っ越してきたばっかだけど、早くもこれに乗るとそう思うようになったな」
部屋に帰り着くと、その思いは更に強まっていた。

「周りを気にすることなく久那と一緒にいられる空間が、俺の家なんだ
 久那さえいれば6畳一間のアパートに居ても、きっと安心して家だと思えるし快適に過ごせるよ」
リビングのソファーに身を任せると、久那がミネラルウォーターをグラスに注いで差し出してくれた。
「酔い醒まし」
久那はいつも俺が最適な状態で居られるよう注意を払ってくれる。
「ありがとう」
俺は受け取ったグラスの水を一気に飲み干した。

「やっぱり、のど乾いてたでしょ
 汁物が和泉には少ししょっぱかったし、刺身に醤油付けすぎてたよ」
グラスに2杯目の水を注ぎながら、久那が少し得意げな顔になった。
飼い主の状況を見分け、それに的確に対応できたと言う自信が現れた表情だった。
「長瀞の域には達してないけど、俺も和泉の体調は管理してるつもり」
久那に愛されている状況が嬉しかった。

俺は再びグラスを空にして
「じゃあ、次に俺が何をして欲しいと思ってるか当ててみて」
挑むように久那に問いかけた。
「シャワーを浴びる前に、ここで1回して欲しい
 シャワーを浴びたら、ベッドで深夜までして欲しい
 寝るときは抱きしめていて欲しい
 でしょ?」
悔しいくらい淀みなく答えられ、それでも何か言おうとした俺の唇に久那の唇が覆い被さってきた。
「まずは、キスして欲しい
 深く、激しく、解け合えるほど」
追加された100点満点の答えを実践するよう、久那の唇が激しく俺を求めてくれる。
口内に差し込まれた舌が俺の舌と絡まり、優しく、強く、欲望を刺激してきた。
粘着質な湿った音が、更に欲望を加速させた。

器用にシャツのボタンを外し、服の隙間から手をさし入れてくる。
どこを刺激すれば俺が反応するのか知りすぎた久那の長い指が、俺の素肌を這い回っていく。
「ん…んん…」
塞がれた唇から喘ぎが漏れ出すと、久那はやっと唇を移動させ俺の首筋を舐め始めた。
「久那は賢くて、本当に最高の飼い犬だ」
喘ぎながら途切れ途切れに何とか言葉を発し、久那の長い髪を梳(す)くように撫でてやると彼の動きが性急な物に変わっていった。


俺達は久那の回答通りの夜を過ごす。
家族の元に帰れた喜びと、久那の腕の中こそが俺の居るべき場所であり帰るべき場所であることを実感しながら、俺は安らかな眠りに落ちていけたのであった。


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