しっぽや5(go)

□アイデアの泉
4ページ/4ページ

ランチを食べ終わった俺達はお客が少ないのを良いことに、デザートを頼んで長居を決め込んだ。
「ウラって楽しい奴だな、聞いてた通りだ」
話をしている最中に和泉がそんなことを言ってきた。
「猫の化生みたいにキレイって?俺、和泉のとこでモデルとして通用しそう?」
満更でもない気持ちで聞くと
「あー、うん、キレイだけど本職には叶わないかな
 ウラレベルなら掃いて捨てるほど見てるよ
 俺が聞いたのは中身の方ね、空の人間版だって」
和泉はケラケラと屈託無く笑っている。
ハスキーと同レベルに語られ、流石にショックを受けてしまった。

「ウラは空のようにガサツではないし、物覚えも悪くありません」
ソウちゃんが俺を庇ってくれたが、ビミョーな言い回しだった。
「何より大変お美しいです」
真面目な顔で頷くソウちゃんに
「いつまでも美しくて可愛いのは和泉だよ
 センスもあるし何でも器用にこなすんだから」
久那も言葉を挟んできた。
「久那、俺のは器用貧乏って言うんだよ
 それは自分でもわかってるんだけどねー
 突き抜ける何かが足りないんだ」
和泉は盛大にため息を吐いている。
自信満々に見えて、和泉も苦労しているようだった。

「そうだ、それもあってウラと話してみたかったんだっけ
 双子の服を用意してあげたって聞いたよ
 俺だと単純に対にしちゃうんだけど、斬新な感じで対にしてたね
 対照色なのに同じデザインとか、同じ色で長さが違うとか、何かデザイン学んだことあるの?」
和泉の言っていることは何だかよく分からなかった。
「俺なりに『対』を意識して揃えたつもりだったけど、違ってた?
 本人達にはよく分かってなかったみたいでも、人間にはけっこー受けてたと思うよ」
首を傾げて答えたら
「配色やデザインの選び方が絶妙だと思ったんだ
 誰に師事したのかな?それって、企業秘密?こっそり教えて
 黙ってるし、デザインとか盗んだりしないから」
和泉は拝む真似をする。

「俺が髪を染める前に着てた服の流用だったりするんだけど
 髪色変わったら、俺のイメージに合わなくなっちゃってさ
 捨てるのも面倒だからあげたと言うか…
 いや、小物とかは買い足したりしたし、純然たるお下がりではないよ
 サイズもそんなに違わなかったから、リユース?
 エコロジー的な感じで良いっしょ?」
弁解するように答える俺を、和泉は口をあんぐり開けて見ていた。
「え?何それ?独学って言うより、本能なの?」
呆然と呟いた後
「才能ある人って、ほんと、無頓着だよね」
そう言ってブリブリ怒り出した。
何を怒っているのか分からず
「こっちは湯水のように金使って服を買える訳じゃないんだ
 ある物を着回していくしかないから、小物とか組み合わせで違う服っぽく見えるように工夫してんの」
俺はキッパリと言い切った。
「まあ、最近は稼ぎが良くなってきたから、ソウちゃんのとか色々買ってるけどさ
 首輪が多いかな…、だって、使うものだし、雰囲気作りは大切だよ、うん…」
最後の方は、どうしても歯切れが悪くなってしまう。

「ある物の組み合わせを変えていく、不自由な中での自由
 囚われた自由、思いがけない組み合わせが生まれる環境ね…
 日野のストラップもブレスの残りで作ったって言ってたっけ
 うん、成る程、そのコンセプトは悪くないな」
さっきまで怒っていたようなのに、和泉はブツブツ言いながら一人で納得し始めた。
「掴めた?」
久那が和泉に問いかける。
「お揃いでいけそう」
お互い少ない言葉でも会話になっていて、それはシンプルなのに長年の間に培ってきた絆を感じさせる状況だった。

「ありがと、体が1つしかないのがモドカシいほどのアイデアなんて、ここ何年も出なかったのに帰ってきたとたんにこれだ
 あれもこれもやってみたい!一本に絞れないのがダメだって分かってても止められない
 化生もだけど、化生の飼い主とも相性良いな俺
 好みの奴ばっかだよ」
和泉は晴れやかに笑う。
「お礼に、ここの払いは俺が持つね
 何ならもっと追加する?」
二ヤッと笑う和泉に
「ちょっと、金持ちなら三つ星レストランで奢るくらいしてよ
 でも、マナーとか面倒くさそうか
 焼き肉でも良いや、A5ランクの牛肉っての食べてみたいなー」
俺もニヤリと笑い返す。
「A5は体に合わないと腹にくるよ、俺は無理なんだよね
 でも食べてみないと合うかどうか分からないか、じゃあ今度お兄さんが奢ってあげよう
 日野に奢るより安く済むだろ」
「ありがとー、オジサマ」
俺達は顔を見合わせて笑い合った。

「それかさ、うちのペットショップで大量買いして売り上げに貢献してくれても良いんだけど
 母親、保護犬の活動してるならフードどう?」
「ウラの店?」
「あ、俺、ペットショップでも働いてんの
 腹ごなしに今から見に行く?
 そこで働いてるトリマーのカズハ先輩が空の飼い主なんだぜ」
俺の言葉に
「空の飼い主!見てみたい」
「どんな物好きな人間なのか興味あるね」
和泉と久那が激しく食いついてきた。

「よし、それじゃ先輩飼い主に最近のしっぽや事情に明るい俺が、色々教えてあげるとするか」
俺は楽しい気分でカップに残っていたコーヒーを飲み干すのであった。


次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ