しっぽや5(go)

□黒シリーズ
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それから暫く歓談し、モッチーはゲンさんの店に戻っていった。
子猫の捜索依頼から戻ってきた羽生と入れ違うかたちで、ソシオが捜索に出て行く。
長瀞にも捜索依頼が入り、電話番は白久が代わってくれていた。
昼前に捜索に出て行った空は、まだ戻ってこない。
大麻生は戻ってきたと思ったら、報告書を書く前に再び捜索に出かけていった。
「繁盛してるみたいだね、忙しいのは良いことだ
 大麻生の飼い主のことちょっと聞きたかったんだけど、また今度にするかな」
大麻生の出て行ったドアを見つめ、和泉さんは目を細めた。

「いつもはここまで忙しくないですよ
 依頼の状況とか、かなり日によるんです
 依頼が全然来ない時なんて、事務所の将来心配になりますもん」
俺はそう答えた後
「大麻生の飼い主に会いたいんですか?
 ゲンさんから『猫の化生みたいにキレイ』って聞いて、モデルにしたいとか?」
疑問に思ったことを聞いてみる。
「いや、双子に服を揃えてあげてるって聞いてね
 良いセンスしてるなって思ってさ
 大麻生も今まで身につけなかった色を着てて、それが似合ってる
 何か学んでたのかちょっと気になったんだ
 アンバランスでいて不思議な統一感があるんだよね」
それはウラが『男娼』だった時に商売道具の自分を飾りたてるため身についた感覚ではないかと思ったが、流石にそう口に出すことは出来なかった。
「いや、あいつのは『本能』み たいなもんじゃないですかね
 基本、チャラ男だから
 まあ根は真面目で良い奴なんですけど、軽い」
俺が説明すると
「でも、ゲンちゃんの説によると化生が心引かれるのは真摯な人だとか」
和泉さんは首を傾げていた。
「ウラのことは人間版の空だと思ってください」
そう言い切ったら流石に察したらしく曖昧に頷いてくれた。


「おっと、失礼」
スーツから着メロが流れた為、黒谷はソファーから立ち上がり部屋の隅に移動してスマホを操作し始めた。
「空、難航してるの?応援出した方が良さそうかい?」
話し込む黒谷を
「留守電機能を使うのも大変だったあの黒谷が、スマホを使ってるなんてね」
和泉さんはシミジミと呟いて感慨深げな瞳で見つめていた。

「捜索は済んだけど、早上がりしたカズハとランチしたいから帰るのは遅くなるってさ
 もうランチって時間じゃないが、捜索してたから仕方ないか
 ちゃんと連絡してきただけ良しとしよう」
スマホを手にソファに戻ってきた黒谷が苦笑して俺の隣に座り直した。
「凄いね黒谷、ストラップまで付けてるんだ」
黒谷とスマホという組み合わせが余程以外だったのか、和泉さんはマジマジと黒谷の手元を見ている。
「ビーズ?天然石?デザインがシンプルだけど配色が良いね、自分で買ったの?」
なおも食いついている和泉さんに
「こちらは僕に似合う色で日野が作ってくださったものです
 ブレスレットも作ってくださったんですよ
 ストラップは日野もお揃いの物を付けてます、お揃いなんです」
黒谷は余程嬉しいのか『お揃い』を強調していた。
「黒谷のオリジナルって訳か、良かったね」
和泉さんは優しい目で黒谷を見て、そのまま視線を俺に向けた。
「愛してるんだ」
そう聞かれたので
「愛してます」
俺は即答する。
「俺以外だって熱烈に化生のこと想ってるじゃん、岩月兄さんは大げさなんだから」
和泉さんはそう呟いて嬉しそうに笑っていた。

「見せてもらって良い?」
和泉さんに聞かれ、黒谷は誇らしくスマホを彼に差し出した。
「黒谷だから黒、って単純な発想じゃないところがセンスだね
 何を使ってるの?」
「ラピスラズリとアマゾナイと水晶です
 ラピスの金が甲斐犬の虎毛っぽいし、黒谷って青が似合うと思って
 ラピスだけだと重いからアマゾナイトで緩和してみました
 水晶は何にでも合うから使い勝手良いんです
 一応、状態の良さそうな石を選んでみました
 黒谷が自分で調整してるし、全体的にそんなに疲れてないんじゃないかな」
「調整?長さとか?」
不思議そうな和泉さんに、俺は簡単に天然石のことを話して聞かせた。
「へー石も疲れたりするんだ
 それでうちの母親は、水晶のさざれに載せて天然石アクセサリー休ませてたのか
 アクセを取るときにさざれが散るからやめろって散々言っちゃって、悪かったなー」
和泉さんは苦笑している。
「そう言う人は水晶クラスターがお勧めなんですけどね
 好みの形のクラスターって、中々巡り会えなくて」
「日野は物知りだね」
素直に感心する彼に
「いえ、これはふかやの飼い主の受け売りです
 ふかやに会ったことありますか?スタンダードプードルの化生です」
俺は慌てて説明する。
「まだ会ってないや
 ゲンちゃんが大所帯になってきたって言ってたのも頷けるね
 暫くは新しい化生や飼い主に会うのが楽しみな刺激になりそう」
和泉さんは楽しそうに笑っていた。


「黒シリーズにいはシルバーアクセ使ってたけど、天然石も面白そうだな
 オニキスが黒い石だったっけ
 日野に石の状態視てもらったり、配色考えてもらうのもありかも
 今度ちゃんと時間とって相談して良い?」
プロのデザイナーに相談を受けるなんて思ってもみなかった俺はビックリする。
「え?だって俺、ズブの素人で、荒木の方がデザインセンスとかあるし」
しどろもどろな俺に
「荒木は白、日野は黒の飼い主だ
 黒シリーズで聞くんだから、それは日野の方が適任だと思うよ
 だって黒を愛してるだろ?」
和泉さんは悪戯っぽく問いかけてきた。

「もちろん、黒のこと心から愛してます」
思わず即答する俺に、和泉さんは満足そうな笑みをみせるのだった。


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