しっぽや5(go)

□お揃いシリーズ
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和泉さんを先頭に俺達は楽屋に入っていった。
そこには久那とジョンが居て服の準備をしている。
俺達以外に人は居ない。
「他のモデルさんは別の楽屋があるんですか?」
部屋を見回しながら聞くと
「今回のモデルは君達だけ、その方が気を使わなくて済むだろ?
 6人で何着か着てもらうから、ちょっと忙しなくて申し訳ないけどね」
和泉さんは舌を出した。
「6人?和泉、まさか」
「そう、岩月兄さんとジョンにも協力してもらうよ
 久那は俺の補佐で忙しいから、頻繁に着替えるの無理なんで」
和泉さんは悪戯の種明かしをしているような、やんちゃな顔で月さんを見る。
和泉さんにとって月さんは、心を許せる大事な親友なんだと思わせる笑顔だった。

「ジョンはまだしも、こんな冴えないオジサンにはモデルなんて勤まらないよ」
呆れ顔の月さんに
「モデルが着てると別世界の服だけど、一般人が着ると一気に身近に感じるもんなんだ
 お揃いシリーズは、庶民のちょっとした贅沢がコンセプトでさ
 これ着て、普段通りに過ごしてくれれば良いから」
和泉さんにウインクされ
「はいはい、それじゃあ庶民代表として頑張るよ、プチジョア君」
月さんは苦笑してジョンの元に向かっていった。

「最初の服だけ俺が選ばせて貰うけど、後は1時間に1回、適当に着替えてみて
 荒木と白久にはこれを用意してみたよ
 『親戚の結婚式にお呼ばれした親子』」
白久と親子設定の服を用意されている不満は、現物を見て吹き飛んだ。
「白いタキシード!これ着た白久、絶対格好いいじゃん!
 子供用も、いかにも子供ってデザインじゃないし」
興奮する俺に
「今回の親子お揃いシリーズ新作イメージは『ちょっと背伸びをしてみよう』だからね
 サイズは小さいけど、子供服って感じは抜いてみたんだ」
和泉さんは得意げに説明してくれた。
「日野と黒谷はこっちの『親子競演』」
服を渡された日野が
「これ、黒シリーズじゃないですか!」
驚愕の言葉を発する。
「あれ、黒シリーズ知っててくれた?
 ファン層広げようと思って、思い切って子供サイズを出してみたんだ
 これなら子供服に興味ない父親でも、子供に買おうって思うんじゃないかって下心全開でね
 子供にとっても『背伸び』にふさわしいかな、と
 実は黒シリーズって、黒谷と大麻生のイメージが大きいんだ
 だから君にも着てみて欲しかったんだよ」
そう聞かされて日野はとても嬉しそうだった。
「因みに久那のイメージはペットとお揃いシリーズの『英国紳士風』
 チェックのリードや首輪と併せられるシャツやコートがメイン
 どうにも作ってみたい物が多すぎて、種類ばかり増えていくよ」
苦笑する和泉さんに
「月さんがマルチクリエイターだって言ってたの、本当ですね」
俺と日野は笑って頷いた。


着替えた俺達をチェックして、和泉さんは移動していった。
後10分程で開場だ。
「俺、この服を貰らおっと」
日野はすかり黒シリーズのファンになったようだ。
「白久にメチャクチャ似合ってるし俺はこれが良いけど、タキシードって着る機会ないんだよな
 他のも着てみてから決めるか」
俺は用意されている服に目を向けた。

「どう?僕、変じゃない?」
黒のタキシードを着た月さんが少し不安げに話しかけてくる。
ジョンはダークブラウンのタキシードを着ていた。
「似合ってます」
「君たちも似合ってるよ」
緊張をほぐすよう会話する俺達に
「どうしよう、黒谷が格好良すぎるんだけど
 プレスも来るんだろ?これ、絶対取材されそう
 人気爆発で時の人になっちゃうかも」
日野が真面目な顔で相談してきた。
「素人モデルだから写真は控えめ、素性については書かないよう決めてもらってるから大丈夫だよ」
月さんが諭しても、日野は心配そうな顔をしていた。


開場を告げるベルが鳴り、俺達は舞台袖に移動する。
「本日のモデルは素人なので取材等は一切お断りします
 ぶっちゃけ、俺の母親『イサマ・ミドリ』先生の知り合いでして、あのオバサンの機嫌を損ねると面倒なことになるのは皆様よくご存じかと思われます
 くれぐれもお気を付を
 新作の解説は俺がしますので、どんどん質問してページを多く割いてくださいね」
和泉さんの挨拶で、開場から笑いが起こっていた。
「では、モデルの皆様方、お越しください」
その声を合図に俺達は和泉さんの側に進んでいく。
「彼らには普段通りを演じてもらいます、はい、下りて料理をいっぱい食べておいで」
和泉さんに促され、俺達は適当に散っていった。
日野を牽制した方が良いと思うものの、人が多くてその姿を探せなかった。
白久と料理を摘んでいると1時間経ち、楽屋に戻る。
すぐに新しい服に着替えて舞台から登場する、という同じ事を忙しなく繰り返すうちに、あっという間に閉会になった。


「お疲れさま、素人モデルも斬新だって珍しがられて皆に好印象を与えられたよ、本当にありがとう
 思ったより料理が残らなくて、折り詰めは作れなかったみたい
 代わりに2着持ち帰って良いよ」
「良いんですか?ありがとうございます!」
料理が残らなかった原因の日野が頬を染めて思いっきり頭を下げていた。
すっかり和泉さんのファンになったようだ。
「2着もらえるなら、あのタキシード貰っちゃおうか
 着る機会無さそうだけど、白久に凄く似合ってたから
 後は普段も着れるの選ぼう」
「はい、荒木とお揃いで」
白久は嬉しそうに笑ってくれた。

新しい仲間との初めてのイベントは、心地よい疲れと美味しい満腹感、格好いい白久を見れた満足感が満載で、忘れられない思い出になるのだった。


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