しっぽや5(go)

□お揃いシリーズ
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<side>ARAKI

新しく知り合った和泉さんと久那の出会いの物語を聞き終えた俺と日野は、思わず深く息を吐いてしまった。
「和泉って、凄いでしょ
 こんなに積極的に化生を想って関わろうとする飼い主、珍しいんじゃないかな
 ゲンちゃんも長瀞の気を引くために一生懸命だったけど
 僕なんてずっとウジウジしてて、ジョンのアピールに上手く応えてあげられなかったんだ
 ジョンみたいに格好いい人が何で親切にしてくれるのか不思議で、最初はからかわれてるんじゃないか、なんて勘ぐっちゃってたし
 和泉の積極性は今でも僕の行動の指標になってるよ」
月さんに親しげな視線を向けられ
「俺こそ、岩月兄さんみたいに落ち着きたいっていつも思ってる
 気を抜くと一人で突っ走っちゃうから」
和泉さんは照れくさそうに笑って頭をかいていた。

月さんの言っていることは、俺にも耳が痛い話だった。
『初めて会ったときとか、俺、白久のことを危ないお兄さんだと思って警戒してたもんな』
そんな俺の顔色を読んだのか
「今はジョンのこと誰よりも愛して大事にしてるって自負があるよ
 荒木君もでしょ?」
月さんはニッコリ笑って俺に話をふってくる。
「もちろんです、白久のこと愛してるし白久も俺のこと愛してます」
思わず自慢するように言ってしまったが、その場にいる人は皆好意的に笑ってくれた。


それにしても、飼い主と化生の馴れ初め話は不思議に満ちている。
そして、年輩の飼い主から聞く話の中の白久は俺にとっては新鮮な感じがするのだ。
俺と一緒にいるときの白久は、皆が言うほど寝てばかりではない。
俺のためにいつも一生懸命何かをしようとしていた。

「白久、最近は俺のためにバジルを育て始めてくれたんですよ
 サラダやピザに入れるのに使いたいって
 俺、白久の作るエビとアボカドのサラダ好きだから」
白久の弁護をしようと少し照れくさく感じながらそんなことを言ってみる。
それを聞いた和泉さんや久那はもとより、月さんとジョンまで目を丸くして口を開けていた。
「植物を育てる…白久が…」
「バジル…おしゃれ食材を白久が…」
「アボカドの剥き方わかるのか…?」
「お浸しや炒め物じゃなく、おしゃれサラダ…」
俺の言った言葉が上手く理解できないのか、呆然とした呟きしか聞こえてこなかった。
「白久のサラダ、トーストにのせても美味しいですよ
 弁当やパーティーのときとかに持ってきてくれるんです」
食べたことのある日野が感想を述べてくれる。
「そうなんだ」
第三者からの言葉で、飼い主の親ばか発言ではないと理解してもらえたようで少し複雑な気持ちになってしまった。

「飼い主が出来ると変わるもんだ、化生は奥深いな」
和泉さんは感心したように頷いていた。
「そういえばジョンも、ずいぶん料理のレパートリーが増えたよね」
月さんに褒められ、ジョンが得意げな顔になった。
「久那はどうなんだ?前はそんなに自炊してなかったろ」
ジョンに聞かれ
「俺は和泉と一緒に色んな店に食べに行ったからね、どこの何が美味しいか把握してるから自分ではそんなに作らないよ
 せっかくこっちに戻ってきたんだ、久しぶりにあそこの焼き肉屋にでも行こうか
 ゲンご贔屓の料亭も良いね、まだ春の山菜料理楽しめるんじゃない?」
久那がウキウキと和泉さんに声をかけている。
「プチジョアめー」
ジョンが大げさに顔をしかめてみせると
「ホカ弁の新商品もちゃんとチェックして流行を追ってるもんね」
久那は得意げに答えていた。

「君達の話も聞いて良い?」
和泉さんが微笑みながら話を向けてきた。
「あ、はい、もちろんです」
俺と日野は一瞬視線を交わし合った。
軽く頷いた日野に促されるかたちで、俺から話し始めることにした。

「俺も和泉さんと同じで、しっぽやに猫の捜索依頼をしたのが白久との出会いでした」
思い出話を語ると、当時は分からなかった白久の不思議な挙動の意味を今なら理解できた。
あんなにも一生懸命、犬が猫の捜索をしてくれていたのだと思うと、その一途ないじらしさが愛おしかった。

話を聞き終わった和泉さんが
「そうか、白久は皆で居るときも何かを待っている風な、心ここにあらず的な態度を見せる時があったけど、ずっと飼い主を待っていたんだね
 てっきり、眠気がきてボーッとしてるのかと思ってたよ」
「ごめん、僕もちょっとそう思ってた」
年輩者の言葉に
「お気になさらずに…」
俺はそう答えるしかなかった。
「白久に飼い主が出来て本当に良かった
 一人が長かったからから、皆、心配してたんだ」
久那が俺を見て優しく微笑んだ。
白久を飼い始めてからすぐにゲンさんやミイちゃんが俺のことを見に来たのは『年若い飼い主』というだけではなかったのかもしれない。
白久が皆に好かれ心配されていたからだ、と言うことに気が付いて胸の内が温かくなるのだった。
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