しっぽや5(go)

□I(アイ)のデザイン〈5〉
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side<IZUMI>

岩月としっぽや所員の服を買いに行く当日、俺達は駅前で待ち合わせをした。
岩月が乗ってきた車は、俺が想像していたよりも大きなものだったので驚いてしまった。
会ったときの気の弱そうな態度から、小型車で来ると思っていたのだ。
助手席に乗り込んでそのことを言うと
「商売やってるから大きい方が便利でさ、中古だけど掘り出し物だったんだ」
少し照れたように答えていた。

「テナントが入ってる店までの道、わかる?俺、買い物の時いつもハイヤー頼んで任せちゃうから説明出来ないかも」
「配達やってるし、マップがあれば何とかなるかな
 繁華街だと、ちょっと自信ないけど」
何とも頼りない2人を乗せ、車は走り出した。


「この辺、若者の街って感じだな−
 こーゆーとこは小回りがきく車の方が便利なんだね」
彼は辺りを見回して慎重に運転している。
「駅前過ぎれば、閑静な住宅街だよ
 と言うか、岩月だって若者の部類でしょ」
「両親が仕事で忙しくて、僕、お爺ちゃんお婆ちゃんっ子だったから
 ガッツリ昭和世代だよ」
俺の突っ込みに岩月は苦笑して見せた。
「今はチェーン店に押されて、前程忙しくなくなったけどね
 古くからの馴染みのお客さんに何とか支えてもらってる感じ
 しっぽやから定期的に仕事が入るの、正直ありがたいんだ」
「フランチャイズ展開とかしないの?
 うちは親父が新しいことに積極的にチャレンジしてるよ」
「僕のお父さん、昔気質(むかしかたぎ)で頑固だから
 僕自身は新しいことが苦手というか…まだ抵抗があって」
話を聞いていると、何で彼がジョンと知り合えたのか不思議になってくる。

「あ、そこ左折して駐車場空いてたら止めちゃって
 後は歩いた方が早いから」
俺の指示で車は左折する。
上手い具合に駐車場には1台分の空きスペースがあった。
「うわ、この辺の駐車料金って高いねー」
料金を確認した岩月が目を丸くした。
「俺の買い物に付き合ってもらう形だし、それは俺が払うから気にしないで」
俺は先頭に立って歩き始めた。


少し道を戻り大通り沿いのテナントビルに入る。
有名ブランド店が多い場所だが、個人ブランドを扱っている店も多々あった。
岩月は普段来ない場所なのだろう、少しオドオドしながら周りを見回して俺の後に付いてきていた。
「この辺、1点ものとかでけっこー良いのがある店が多いんだ
 自分ではクリーニングのことまで考えて選んだことなかったから、そこんとこは岩月が見てよ
 仕事着と作業着で分けられれば良いけど、流石に現場で捜索直前に着替えられないもんね」
その辺は久那の捜索を間近で見ていたので、俺にも判断が付くことだった。

「イズミちゃん、久しぶりじゃない?新作色々入ってるわよ」
馴染みの店に顔を出すと、店長が親しく声をかけてきた。
「あら、今日は見ない顔のお連れ様ね」
目ざとく岩月に気が付き、チェックするように視線を巡らしている。
「彼は布地のチェック兼、荷物持ちになってもらう予定
 クリーニング屋さんなんだ、洗えないような服、売りつけるなよ
 今日は自分用じゃなく、知り合いの仕事着兼作業着を買うんだ
 他も見に行って、徹底的に比較してから選ぶぜ
 岩月、こっちはオネエキャラが売りのボン店長
 品質表示しっかりチェックしてやれ」
「もう、イズミちゃんたら意地悪なんだから
 よろしくね〜、イワツキちゃん」
「あ、あの、はい、よろしくお願いします」
店長に慌てて頭を下げている様子は純朴な感じで、ハーフみたいに格好いいジョンと付き合っている(んだろう、多分)のが不釣り合いに思われた。


俺と岩月は店内を見て歩く。
「これ、白久にどうかと思うんだ、1点ものなのにサイズピッタリだし
 同じ白でも長瀞はこっちかな、惜しい、ちょっと大きいや
 大麻生だと軍服モチーフが似合うと思うけど、ペット探偵って職業の人が着てたら引くか
 それを言ったら、黒谷と新郷は和装なんだよなー」
俺は次々と服を選び、岩月に渡していく。
彼は品質表示をチェックし『これならうちで洗えそう』とか『これは汚れによっては手に負えないかも』などブツブツ言っていた。
押しが弱そうでもプロ意識はあるようだ。

選び終わった服を店長に渡し
「これ、取りあえずキープしといて
 コンさんやカーターの店もチェックしてくるから」
「全部うちで買っちゃいなさいよ、イズミちゃんのイケズ」
クネクネもだえる店長を残し、岩月を連れて俺は他の店に向かった。

「和泉って、この辺の常連なんだね」
驚いたように息を吐く岩月に
「行くのは親父が出資した店ばっか、だから顔が効くんだ
 母親の店は、流石にこの年になると行く気にならないよ
 レースやリボン、フリフリの店でね
 しっぽやの皆が着るような服は無いし」
何でもないことのように答えると、彼はさらに驚いた顔になるのだった。
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