しっぽや5(go)

□I(アイ)のデザイン〈1〉
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side<ARAKI>

白久とデートを楽しんだ翌日のバイトの時間、俺はPCのモニターを見ながら顔がニヤケてしまうのを止められなかった。
「ニヤケすぎ」
日野が手にしていたチラシの束で俺の頭を軽く叩いた。
そういう自分もニヤニヤしている。
その顔は、日野にとっても昨日の飼い犬とのデートが楽しかったことを雄弁に語っていた。

「しかたないだろ、白久が可愛いんだから
 バジル育て始めたんだ
 犬が植物に興味持つって、凄くない?
 それが飼い主である俺のためだと思うと、嬉しすぎて顔に出るだろ
 この時期、夜はまだ冷えるから寝る前にプランターを部屋の中に入れてやるんだ
 世話してると植物も可愛く思えるね
 まあ、育ったら食べちゃうんだけど」
今朝はプランターをベランダに出し、白久と2人で水やりをしてきた。
昨日より少し育っているんじゃないかと思うほど、俺は親ばかモードになっていた。

「お前だって、さっきっからニヤニヤ笑ってばっかじゃん
 昨日のデート、楽しかったんだろ?」
俺がお返しのように言うと
「まあな、清々しく散財してきたぜ
 動物関係の本色々買ったんだけど、写真が多と高いのな
 読み終わったら事務所に持ってくるんで、荒木も読んでみれば?
 資料にもなるから猫と犬の写真集もあるぜ
 最近珍しい種類の依頼も来るしさ」
日野はもっともらしく頷いて見せた。
「それだけか?何かもっとイヤラシい笑いに見えたけど?」
俺は親友の感で鋭く突っ込んでみる。
「黒谷に首輪を買って、黒谷にも首輪買ってもらった…
 って、いや、何でもない
 天然石のパーツ買って、黒谷にブレス組んであげたんだ
 カジュアルな格好させて付けると似合いすぎて自分の配色の才能が恐ろしい!って、カズハさんやウラには適わないけどな
 お揃いで天然石ストラップ、なんてのも作ってみたぜ
 結構良い出来だと思わない?ナリの占いブースとかで売れそうかな」
日野はスマホを取り出してストラップを見せてくれた。

「へー、シンプルで格好良いじゃん
 店で売ってるのって、ゴチャゴチャし過ぎなんだよな」
俺は素直に感心する。
色味も日野と黒谷に似合っていた。
「気に入ったなら、似たような感じで白久とお揃いの作ってやるよ
 来月の誕生日プレゼントだ
 白久のイメージだとミルキークォーツとかムーンストーン
 荒木だと透明なブルー系、でもブルートパーズはストラップにするには値段が高いな
 また黒谷と店に行って、色々見てみるよ」
嬉しそうな日野に
「お前、俺をダシに黒谷とデートする気だな」
俺はビシッと指摘した。
「あーゆー店に犬と入れる特権を使わない手はないぜ」
日野は余裕の表情でウインクして見せた。


コンコン

バカ話をしている最中、ノックの音がして事務所の扉が開いた。
俺達は慌てて居住まいを正す。
「やあ、こんにちは」
入ってきたのは月さんとジョンだった。
「え?昨日頼んだ制服のクリーニング、もう出来たんですか?
 そんなに急がなくて良かったのに」
わざわざ持ってきてくれたのかと思い恐縮してしまう。
「いや、あれはまだ終わってないよ
 今日はここを待ち合わせ場所にさせてもらったんだ
 控え室で待たせてもらうね」
月さんが言うと
「飲み物は自分達で用意するからお構いなく」
ジョンが言葉を続けた。
「ごめんね、事務所を喫茶店代わりにしちゃって」
申し訳なさそうな月さんに
「あれ?近々そっちに行くって連絡あったけど、今日?
 何で所長の僕に日にちを教えないかな、久那(くな)のやつ
 ラッシー殿の足下にも及ばないんだから、まったく」
黒谷は所長席でブツブツ文句を言っていた。

俺も日野も訳が分からず顔を見合わせた。
「すみません日野、古い仲間が顔を出しに来るようです
 飼い主の仕事の関係で少し離れた場所で暮らしていたのですが、どうも近くに引っ越してくることになったらしく
 しかし詳しいことを教えてくれないんです、サプライズ的演出がどうとか
 さっぱりわかりません」
黒谷は肩を竦めている。
「急だったみたいだよ、僕のとこに連絡が来たの昨日の夜だもの
 和泉(いずみ)、忙しそうだね
 久那がいるから無茶出来るけど、久那がいるから出来ない無茶もある
 久那は和泉君の良いストッパーだ
 僕の仕事は安定してて助かってるよ、ジョンがいるから更に安泰」
月さんはジョンに笑顔を向けた。
「岩月…こいつらがジャージで捜索してくれれば更に安泰だと思うんだけど
 黒谷、お前、黒スーツだから目立たないと思って山中歩き回ったろ
 枯れ葉やら砂利やら付いたのを、そのままクリーニングに出しやがって」
ワナワナ震えるジョンの言葉を誤魔化すように
「最近は大麻生との捜索勝負に熱が入っててね
 あ、大麻生と久那が揃うと名犬ドラマコンビだ
 日野はお若いからそんなドラマは観たことないですよね」
黒谷は日野に話を振っていた。

俺も日野も益々訳が分からなくなり、呆然とするしかないのだった。
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