しっぽや5(go)

□未来に向けた勉強会
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side<HINO>

今日は午前中に講習所の授業を受けた後はフリーだった。
もちろん、俺と荒木にフリーな時間などない。
俺たちはランチに宅配店のピザを買い込んで、しっぽや事務所に向かっていた。


「持ち帰りだと割り引きしてもらえるからお得だよな」
「Lサイズが6枚もあると、持ち帰るのも一苦労だけどね
 お前、1人で3枚は食う気だろ」
荒木に横目で見られ
「ピザだけだと流石に飽きる
 あ、オニギリのオカズにすればそんくらい食えるかも
 そこのコンビニでオニギリ買ってくるから、ちょっと待ってて」
俺は持っていたピザを荒木に押しつけ、コンビニに向かう。
「炭水化物のオカズに炭水化物…」
荒木の呆然とした呟きが微かに聞こえてきた。


オニギリと飲み物を買い込み、さらに増えた荷物を持って俺たちは事務所にたどり着いた。
ノックの前に気配で気付いていた白久が扉を開けてくれる。
両手に荷物を持っていた俺たちには、ありがたい出迎えだった。
直ぐに黒谷も駆け寄ってきて荷物を持ってくれた。
「随分買ってきてくださいましたね」
「皆で食べようと思って、買い込み過ぎちゃった
 やっぱ、ピザにはコーラだよ
 後、ソシオにポカリ、黒谷にはカルピスウォーター」
俺の言葉で黒谷が破顔する。
「ちょうど依頼も来ていませんし、早速いただきましょう」
俺たちは長瀞さんに電話番を交換してもらい、控え室に向かっていった。

「いやー、飲み物あると荷物が一気に重くなるな」
まだ温かいピザのチーズを伸ばして食べながら俺が言うと
「そうでしょう、歩きの買い物だといつか指が千切れますよ」
タケぽんが万感の思いを込めて大きく頷いていた。
「俺達が免許取ったら、重い物とか大きい物は車で買い出しに行くよ」
同じくチーズを伸ばしている荒木が得意げな顔で言う。
「頼りにしてますよ、ほんと」
拝む勢いのタケぽんに
「飲み物は特売品ねらいで何時でも良いけど、オツトメ品は夕方に買いに行くのがお前の仕事だ」
俺はビシッと言ってやる。
「…はい」
大きな体を竦ませる後輩を見て、俺も荒木も思わず笑ってしまった。

ランチを楽しんでいる最中に電話の音が聞こえてきた。
俺達は会話を止め、応対している長瀞さんの言葉に耳を澄ませる。
「はい、はい、ドアを開けた拍子に一緒に出てしまったんですね
 …ええ、種類は?ノルウェージャンのミックス…」
猫種を聞いたタケぽんとひろせが顔を見合わせた。
「僕達が出ましょう」
「うん、こないだの捜索でノルウェージャン系とは相性いい感じだったもんね」
2人は頷きあってソファーから立ち上がった。
「ピザ、とっといてやるよ」
気を利かせて引き出しからラップを取りだそうとする俺に
「しょっぱい物は、もう十分食べました
 後は捜索成功させたら、ご褒美にケーキを食べます」
タケぽんはキリッとした顔で断言する。
「ああ…うん…」
「成功…すると良いな…」
俺と荒木が曖昧に呟く中
「それじゃ、行ってきます」
「長瀞、その依頼、僕達が受けますよ」
タケぽんとひろせは張り切って控え室から出ていった。


「捜索を手伝えるって、羨ましくはあるよな
 役に立ってる感あるからさ」
2人を見送る俺の言葉に
「まあ、実務を手伝えるからね
 でも、俺にしかできない仕事があるから俺はそれを頑張るよ
 今度、波久礼の名刺も作ってあげようと思うんだ
 猫カフェで波久礼が自分のこと説明するの、楽になるようにさ」
荒木は誇らかに答えて見せた。
「日野にだって、日野にしか出来ない仕事あるじゃん
 HP、GW過ぎにはオープン出来そうだもんな
 始めは戸惑いそうだけど、夏休みまでには軌道に乗れるんじゃないか?
 サイトに問題起こったら、日野が解決してくれよ
 俺だと大事なとこ消しちゃいそうで怖い」
照れた顔で俺を見る荒木に
「それくらいなら、まかせとけ」
俺は明るい気持ちで答えることが出来ていた。
荒木が見せる底力のような強さは、俺にとってはいつも眩しくてありがたいものだった。


ランチの後片づけをし、荒木と共にPCデスクに向かい作業を開始する。
黒谷は電話番のため所長席に戻り、白久は猫の布団になるために控え室にいた。


コンコン

ノックの後にナリとふかやが事務所に入ってきた。
「依頼達成、プードルは無事に保護して送り届けてきたよ
 日野と荒木に会いたいってナリが言うから、途中で合流して一緒に来ちゃった
 僕は今から控え室で書類作成しちゃうね」
ふかやはそう言い残し、控え室に去っていった。
「こんにちは、仕事中にごめんね
 教習所のほうどうかなって気になっててさ」
ナリは笑いながら話しかけてきた。
俺と荒木は顔を見合わせ
「ぼちぼちって感じですかね」
「強化合宿的な日程じゃないから、時間的には贅沢にやってます」
そう答える。
早く免許は欲しいが2人で送れる学校生活のような状況を楽しみながら通っている、と言うのが本音であった。
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