しっぽや5(go)

□春休み・ハッピーラッキーデート〈 side A 〉
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side<SIROKU>

卒業式が終わり試験休みから春休みに入った荒木は、頻繁にしっぽやに来てくれることになった。
しかし自動車の教習所に通うためバイトの出勤日数を押さえているらしいので、荒木的には頻繁とは言えないとのことだった。
日野様も同じ教習所の同じコースを選択されているため、2人は卒業した後も一緒の学校に行くことが出来てとても楽しそうに見えた。
私も黒谷もそんな飼い主達を見るのが嬉しくて、2人のバイトの日には良いところを見せようと捜索を頑張る毎日を過ごしていた。
飼い主達が大学に通うようになれば、また会える日が少なくなってしまう。
私達はそれまではこの幸せを存分に謳歌するつもりでいた。
他の化生達もそのことを分かっていてくれて、私と黒谷が飼い主と一緒にいる時間を作ろうとしてくれている。
皆のありがたい心遣いに甘え、明日は私と荒木はしっぽやのお休みを頂いていた。
荒木がこちらに来てくれて、2人でデートを満喫する予定なのだ。
デートとは言え、あちこちに出かけて用事を済ませる必要があったが、それすらも飼い主と一緒に行けば特別に素敵な時間になることを感じていた。
翌日に着ていく服や持って行く鞄にエコバッグ、お店で何を買うか何度も確かめて興奮のままベッドに入った。
飼い主がいつ姿を見せてくれるかわからず寝て待つしかなかった犬の時に比べ、今はどれだけ寝れば飼い主と会えるかが分かっている。
飼い主の姿がない寂しいベッドの中ではあったが、翌日に思いを馳せて私は安らかな眠りにつくことが出来るのだった。



気が逸(はや)っていたためか、翌朝は予定よりも早く目が覚めてしまった。
荒木が来てくださるのは10時であるのに、今はまだ6時前だ。
『明るくなるのが、ずいぶん早くなりましたね』
時に肌寒い日があるものの、もうすっかり春なのだと感慨深く感じていた。
寝直す気にはなれなかったので、私はそのまま起きてしまうことにする。
私は起き上がるとテレビをつけた。
飼い犬になる前は頻繁に観ることがなかったけれど、今は天気と交通情報をチェックするために毎朝必ずテレビをつけるようにしていたのだ。
朝のニュース番組は私にとって役に立つものとなっていた。
天気は晴れ時々曇り、交通情報に特に乱れなし、それを確認しホッとする。
飼い主とのデートのさい先は良さそうだ。
私はお茶を煎れ、何か良い情報はないかとテレビを再度観始めた。

お茶を飲みながらテレビを観ていると、スマホがメールの着信を告げた。
荒木からのメールだと気が付いて、内容を確認するため焦ってスマホを操作する。
『白久、おはよう
 まだ寝てたら起こしちゃってごめん
 なんか興奮してて、早く起きちゃった
 せっかくだから一緒に朝ご飯食べたいなと思って、朝からメールしたんだ
 たまにはファミレスのモーニングとかどうかな
 都合がいい時間教えてくれたら、早めに家を出るよ』
荒木からの嬉しいお誘いに、私はすぐに返事を返す。
『おはようございます
 私も今日のことが気になって、早く起きていました
 すぐに準備に取りかかります
 こちらまで来ていただくのも大変なので、駅で待ち合わせて一緒にファミレスに参りましょう
 モーニング、楽しみです』
初めてスマホを触ったときよりだいぶ早く文字を打てるようになったので、あまりお待たせせずに返信する事が出来た。
私は早速身支度に取りかかる。
あらかた準備が終わった頃に再度荒木から『今から、家を出るね』とメールが来る。
『私もすぐに出ます』そう返信し鏡で自分の姿を確認すると、影森マンションを後にした。


「白久!」
駅の改札付近で待つ私に気が付いた荒木が、走り寄ってきてくれた。
改札を抜け私の隣に並ぶと
「駅で待つ白久を見ると、クロスケの捜索してた時を思い出すよ」
そう言って笑ってくれた。
荒木は大きめのスポーツバッグを持っている。
それは以前に荒木が泊まりに来てくださる時によく持ってきていた『お泊まりセット』が入っていたものだった。
今は私の部屋の荒木の私物が増えているので、持ってくることは減っていた。
「お荷物、お持ちします」
私の申し出に
「重くないから大丈夫
 もうシワになってもいいや、って思ってギュウギュウ詰め込んで来ちゃった」
荒木は悪戯っぽく笑っていた。

「モーニングってあんまり食べる機会無かったね
 ランチとディナーにはよく行ってたけど
 2人で住むようになったら、頻繁に行ってみよう
 今日は和食と洋食、どっちにする?」
「トーストを食べたいので、洋食にしようと思っています
 荒木はどういたしますか」
「俺もトーストが良いかなベーコンエッグついてるやつ」
「良いですね、私もそれにいたします」
飼い主と並んで楽しく話しながら歩く朝の道は輝いて見えて、今日が素敵な1日になることを予感させるのであった。
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