しっぽや5(go)

□新たな仲間に教える未来
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後片付けを終えシャワーを浴びると、日付が代わる時間になっていた。
俺とサトシはベッドに腰掛けて、楽しかった宴の余韻に浸っている。
「サトシがモッチーと仲良くなってよかった
 荒木とかだと『友達』って感じじゃなかったから
 新郷の飼い主とは仲良いけど、影森マンションに住んでないもんね
 サトシは忙しいから、あんまり会えないでしょ
 『気軽に会える友達』が居れば良いなって思ってたんだ」
俺が顔をのぞき込むと
「羽生は俺のことよく見てるな」
サトシは苦笑していた。
「羽生はソシオがしっぽやの所員になってくれて嬉しいか?」
サトシに聞かれ
「うん、今日も俺が料理を教えられる相手がいるって事が楽しかった
 ひろせも後輩だけどさ、俺より料理上手いもん
 猫だったときの経験も豊富だから、あんまり後輩って感じしなくて
 長瀞も双子も俺よりうんと長生き猫で落ち着いてるし、俺、しっぽやではいつまでも子猫扱いされてるの
 ソシオは『シニア』って年になる前に死んでるみたいで、化生したのはずいぶん前だけど猫としては若いんだよ
 今まで猫被ってたけど、飼い主が出来て地が出てきたって言ってた」
俺はそう説明する。

「じゃあ、2人が仲間になってくれたことは、俺達には良いこと尽くめなんだな」
サトシに言われると、俺もそう思えてくる。
「また一緒にご飯食べよう、2人と一緒だと楽しいもん」
「そうだな」
頷いたサトシがクスッと笑う。
「?」
俺の無言の問いかけに
「いや、今日の俺とモッチーの服装、相手の飼い猫だったなって思ってさ
 モッチー、黒い服が好きみたいだな
 でも飼ってるのは三毛猫
 俺は三毛猫色のコーデが多いけど、飼ってるのは黒猫だ
 お互いの猫のコスプレしてる気分になって、ちょっと面白かったよ
 でも今度は、自分の飼い猫のコスプレも面白そうだ」
サトシはまだ笑いながら答えてくれた。
「サトシが俺みたいな格好するの?」
それはとても嬉しいことだった。
「ああ、今度は黒尽くめでお出迎えしよう」
「楽しみ!」
俺は思わずサトシに抱きついていた。

「今日は色々作ってくれてありがとう、どれも美味しかった
 大変だったろう?ご苦労様」
サトシは抱きついた俺の髪を優しく撫でてくれる。
「長瀞みたいに栄養バランスとか上手く考えられなかったけど
 野菜のメニューを出すって、難しいね
 サトシも仕事お疲れさま」
俺はサトシの手の優しい感触にウットリしながら答えた。
「羽生はどんどん、子猫から大人の猫になっていくな
 俺が育ててあげられなかった分の成長を見ることが出来て幸せだ
 こんな俺でも立派な猫飼いになれて嬉しいよ
 俺の幸せは、いつも羽生が作ってくれるんだな」
サトシは愛おしそうに俺の目を見つめ、唇を合わせてきた。
「俺の幸せも、サトシが作ってくれるよ」
俺はサトシの唇を深く受け入れ、舌を絡めた。

「ん…」
唇からもれる甘い吐息と湿った音、優しく触れてくるサトシの手、ベッドのシーツが立てる衣擦れの音、首筋を移動するサトシの唇、その唇が紡ぎ出す愛の言葉。
化生しなければ永遠に手に入れることは叶わなかった幸せ。
サトシと契るとき、あまりに幸福すぎて死んだ後の俺が見ている都合の良い夢なんじゃないかと思うことがある。
俺のことで泣いてばかりだったサトシが、今では力強く俺を抱きしめ俺の中に熱い想いを解き放ってくれていた。
一つに繋がり想いを確かめあえる幸福感は、何者にも代え難かった。


契った後も、俺達はしっかりと抱き合ってお互いの存在を感じていた。
「俺は全ての化生が羨ましがる存在だね
 飼い主とやり直せている化生は、俺しかいないんだ
 俺の方が飼い猫の先輩で後輩に色々教えてあげたいけど、この気持ちはソシオに教えてあげられないや
 サトシにまた会えた喜びを、どう言えばいいのかわかんないもん」
「それは俺も同じだ
 自分の手をすり抜けてしまった小さな命に再び会えた、こんな幸せが訪れるとは思いもしなかったよ
 他の飼い主にどう言えば伝わるのか、わからない
 どんなに言葉を尽くしても、それでは足りない気がしてな
 言葉を教える教師として形無しだ」
俺達は顔を見合わせて少し笑ってしまった。

「三毛猫の雄は縁起が良いと言われているが、黒猫は福猫として幸運を招くと言われているとか
 黒猫飼い先輩の荒木の受け売りだけど、黒猫の縁で白久に出会えたらしいんで全くの眉唾じゃなさそうだ
 羽生は俺のラッキーキャットだよ」
サトシの言葉に俺は驚いてしまう。
「俺もラッキーキャットなの?」
「ああ、最高のラッキーキャットだ
 後悔した過去をやり直せる機会なんて、そうそう無いからな
 羽生が居てくれるから出来ることだよ」
サトシの優しい言葉が俺の胸いっぱいに広がっていく。

「俺、ラッキーキャットとしてもソシオの先輩なのかな
 どっちが飼い主を幸せに出来るか勝負するのも面白そう」
サトシの温かな腕の中で後輩との勝負を想像し、俺は楽しい思いで眠りにつくのであった。


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