しっぽや5(go)

□新たな仲間に貰う未来
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side<TAKESI>

ピンポーン

ひろせの部屋のチャイムが鳴った。
俺がひろせを見ると彼は大きく頷き
「ソシオの気配です、無事に部屋が分かったようですね」
微笑みながらそう言った。
俺は急いで玄関に向かいドアを開ける。
「こんにちは、お招きいただきありがとうございます」
そこには満面の笑みを湛(たた)えたソシオが飼い主と一緒に立っていた。
「どうも初めまして、ソシオの飼い主の持田保夫(もちだやすお)です」
格好良くワイルドで厳(いか)つい外見に似合わず、彼は丁寧に頭を下げた。
「ひろせの飼い主の武川丈史(たけかわたけし)です
 どうぞ入ってください、って俺の部屋じゃないけど」
俺も挨拶を返し、2人に入室を促した。


今日は正式にしっぽや所員になったソシオとその飼い主が、俺に服をくれるために来てくれたのだ。
事前に相談されていたので、俺とひろせはお礼のおもてなしをしようと朝から奮闘していた。
情報を得ていたソシオの好物の他に、猫バカ(飼い主)受けを狙って、かるかん粉のロールケーキも用意してある。
初めて会うお客様に喜んでもらえるか、喫茶ひろせの腕の見せ所であった。


「わあ、凄い美味しそう、クリームとあんこのケーキがあるよ」
ソシオが頬を紅潮させ飼い主を見上げる。
「よかったな、ソシオ、あんこ好きだもんな」
持田さんは優しい目でソシオを見つめていた。
俺とひろせは視線を合わせ
『やった!受けてる』
と想念を交わした。
「古着のお礼が豪華なケーキで申し訳ないな
 あんま気を使わなくて良いから
 これ、良かったら着てやってくれ」
持田さんは苦笑して、大きな紙バッグを渡してきてくれる。
それから俺をジッと見て
「サイズは問題なさそうだな、でも俺の方が横幅あるか
 まあ、ダブつく程じゃないだろう
 俺が履いてたので良けりゃ、今度はボトムも持ってくるよ」
そう言って頷いてみせた。
「ありがとうございます、助かります
 前貰った服ってあんまり着てないし、ブランド物みたいだけど良いんですか?」
俺は恐縮してしまう。
「モッチーが着てたもの捨てるの勿体ないから良いの」
クッションに座ったソシオがケーキから目を離さずに断言する。
「大事に着させていただきますね」
ひろせがケーキを切り分けながら嬉しそうに微笑んでいた。

「どうぞ、持田さんも座ってください
 ローテーブルしかないんで、気楽に胡座(あぐら)かいちゃって良いですから」
俺はソシオの隣のクッションを指さした。
「俺のことは『モッチー』でいいよ、タケシくん
 親しい奴らはみんなそう呼ぶからさ
 化生の飼い主同士、ってのは親しい間柄に入るだろ?」
「もちろんです!
 じゃあ、俺のことは『タケぽん』って呼んでください
 俺の名前『タケ』がくどいから」
俺はヘヘッと笑ってみせる。
「そういや、そうだ
 改めてよろしくな、タケぽん」
「こちらこそよろしくお願いします、モッチー」
和やかな雰囲気の中、お茶会が始まった。


「すごいな、これ全部手作り?」
モッチーはテーブルの上のお菓子を見て、目を丸くしている。
「はい!俺じゃなくひろせの手作りですけど」
「タケシも沢山手伝ってくれました、2人の手作りです」
ひろせが頬を染めて笑う。
「最近では『居酒屋ながとろ』に負けない『喫茶ひろせ』ですよ」
俺はちょっと誇らかに言ってみた。
「ああ、長瀞さんの作るつまみ、美味いもんな」
モッチーは、既にナガトの料理を食べたことがあるようだ。
「ソシオは最近、煮込み料理を頑張ってるんだ
 この前作ったカレー、美味かったよ」
飼い主に誉められ、ソシオは得意げな顔になる。
「羽生に教わったの、野菜が煮崩れないようにあんまりかき回しちゃダメなんだって
 今度はビーフシチューにチャレンジしてみるからね」
「そりゃ、楽しみだ」
2人はすでに幸せそうな飼い主と飼い猫だった。


「このあんこのケーキ、美味しい」
ソシオはよほど気に入ったのか、2個目を食べていた。
「クリームとあんこって、合いますよね
 あんこの重さがクリームで軽くなるし、コクが出る
 洋菓子にも積極的に取り入れたい材料です」
「俺、モッチーに食べてもらいたくて料理の勉強中だけど、お菓子は作ったことないんだ、難しそうでさ
 コーヒータイムに手作りスイーツ出せたら良いだろうな」
「シベリアに生クリームを塗るだけでも、それらしくなると思いますよ」
「それ簡単で美味しそう!今度やってみる」
猫達は打ち解けて、和気藹々(わきあいあい)と話し込んでいる。

「今まで家庭的な奴と付き合ったことなかったから、新鮮というか
 何か、良いもんだなこーゆーの」
俺と目が合ったモッチーは、相好を崩し照れた笑顔を浮かべていた。
俺もきっと彼と同じくらいデレデレした顔になっていることを自覚したが、その表情を引き締めることは出来なかった。
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