しっぽや5(go)

□新たな仲間を真似る未来
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大野原不動産からしっぽや事務所に戻ると、やはり白久は帰ってきていた。
「白久を出迎えようと思ってたのに、ごめんね
 ゲンさんのところで話し込んじゃってさ
 ソシオの飼い主に会ったんだ、今夜の夕飯に招待されたよ
 一緒にお邪魔しよう、部屋を見せてもらいたいんだ
 俺達の未来の参考にさせてもらいたくて」
「なるほど、一緒に住めるようになった時の下見ですね、楽しみです」
白久は幸せそうに頷いた。


業務終了後、いったん白久の部屋に帰り荷物を置いてからモッチーの部屋に移動する。
白久はソシオに負けまいと手早くエビとアボカドのサラダを作り、それを手土産にしていた。


ピンポーン

チャイムを押すと
「いらっしゃい、しっぽやからの初めてのお客さんだ
 ゲンと長瀞は不動産屋だからノーカウント」
ハシャいだ様子のソシオが迎えてくれた。
「お招きありがとうございます
 差し入れで、こちらを作ってきました
 ビーフシチュー、荒木が気に入るようならレシピを教えてください」
「有名な『白久のエビとアボカドのサラダ』だね
 モッチーが気に入るなら、俺にもこれのレシピ教えて
 レシピの交換だ」
笑いあう化生達が微笑ましい。
「俺が大学合格できたの、ソシオのおかげかも
 前に撫でさせてもらったじゃん
 白久が支えてくれたから頑張れたってのも強いけどね」
俺が礼を伝えると
「モッチーも、俺が居るからって良いことあればいいのに」
ソシオは少しションボリしてしまった。
「何言ってんだ、ソシオと付き合ってから俺は良いことずくめだよ」
遅れてやってきたモッチーが後ろからソシオを抱きしめたため、その顔はすぐに華やかな笑顔に変わった。

「ほら、入った入った
 まずは腹ごしらえして、それから部屋の中とか見て回れば良いだろ」
その言葉に従って、俺達はリビングに移動する。
テーブルの上には、夕食の準備が整えられていた。


「君が白久か、さすが大型犬だ、俺と同じくらいタッパありそうだな
 ソシオは君と話した記憶があまりない、って言ってたよ
 たまにお屋敷に来ても、大抵寝てるからってね
 しっぽやでは猫達と寝てたんだろ?双子からは白久の話をよく聞いていたらしい」
食事の最中モッチーにそう言われ、白久は恥ずかしそうに俺を見る。
「白久は温厚なんで猫達に受けが良いんです
 犬だったとき飼い主の帰りを待ちながら寝てたんで、習い性になってるみたい
 俺のためには、いつも頑張ってくれてますよ
 格好いいだけじゃなく、頼りになります」
俺が取りなすように言うと、白久の顔が輝いた。
「ごちそうさま」
モッチーはシチューを口にしながら、ニヤニヤして俺を見た。

「私も、ソシオとはあまり話した記憶がありません
 武衆の者と一緒に健康診断を受けに来なかったので、波久礼やハスキー達経由で話を聞くくらいでした」
白久の言葉に
「だって俺、医者、嫌いなんだもん
 病院なんて行ったら、絶対良くないことが起こるよ」
ソシオはムクレた顔になった。
「大丈夫だ、もうあんな目に合うことはない
 いくら積まれたって、俺がお前を売るわけないだろ」
モッチーに優しく頭を撫でられて、ソシオの表情は和らいでいった。
「こいつ、猫だったとき獣医に売られかけてさ
 三毛猫の雄で生殖機能に問題無かったから、欲しがられたのも無理ないんだけどな」
「それは、欲しい人は欲しいかも」
無邪気に見えるソシオも、過去では辛い目に合っていたようだ。
けれどもモッチーは、それごとソシオを受け止めている。
やはり『良い人』だった。


飼い主が居なかった時にはあまり接点がなかった白久とソシオだけど、今は打ち解けてお互いレシピの教えあいをしていた。
それは俺とモッチーも同じかもしれない。
バイクを乗り回す厳つい大人と、猫談義で盛り上がるとは思ってもいなかった。
「この年で、高校生の知り合いが出来るなんてな」
彼も同じ事を考えているようだ。
「俺、春には大学生です」
俺が少し語気を強めると
「おっと、そうだったな
 でもまだ未成年だ、食後の一杯はコーヒーにしておこうか
 豆から挽いた本格コーヒーだぜ
 食い詰めたら喫茶ひろせで雇ってもらうかな」
モッチーはおかしそうに笑っていた。
「用意してる間、部屋でも見て回ってきなよ
 ソシオ、荒木と白久に俺達の部屋を案内してあげな
 案内って程広くないが」
「うん、わかった」
こうしてソシオに案内され、俺と白久はリビング以外の部屋を覗かせてもらった。

「最初はガランとしてたけど、今は俺達の場所だって思えるようになったよ
 もっとも、寝るとき以外は2人でリビングで過ごしてるからワンルームと物置みたいなものかも
 少しのお客ならリビングで十分だし、皆で集まりたくなったらナリの部屋に行けば良いんだ」
ソシオの説明に自分達の未来とこの部屋を重ねてみると、しっくり感じられた。
「何か、いい感じだね」
「私もそう思います、こんな風に荒木と暮らしてみたいです」
俺達は強く手を繋ぎ合った。

コーヒーの良い香りが漂うリビングでまた少し雑談し、俺達は部屋に戻っていった。
「大学卒業したら、すぐ2人で住もう
 ゲンさんに言って、部屋をキープしといて貰わなくちゃ」
「ソシオ達のような部屋であれば、荷物も増やせますね」
「新たな目標が出来た感じで、モッチーの部屋見せてもらえて良かった
 良い人が越してきたよ」
「ええ、良い仲間が増えました」
俺達は帰ってからも気分が高揚していて、未来の予定と新たな仲間について取り留めもなく話し込む。

それは希望に満ちあふれた輝く時間となって、俺達の思い出のページを彩るのだった。


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