緑の指を持つ僕は、妖怪達に懐かれる

□オサキ狐編 PART1〈No.25〜27〉
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〈No.25〉ビクビク
  ◆OSAKI〈1〉


僕の部屋の机の上には、1輪の花が飾られていた。
以前迷い込んだ不思議な屋敷の庭に咲いていた花だ。
スマホで調べても何の花か分らなかったが、分からなくても良いと思っている。
萌葱(もえぎ)が届けてくれたその花は、一輪挿しの花瓶でいつまでも瑞々(みずみず)しく爽やかな香りを放っていた。
深緑(しんりょく)に『せっかくの迷い家(が)から、一生保つ芳香剤を貰うとは』と呆れられたけど、僕にはこの花が不思議な存在との『絆』のように感じられるのだ。
妖怪達と一緒にいると驚いたり呆れたりもするが、楽しくて今まで知らなかった事を知る事が出来た。
それは、人間だけの付き合いの中では得られない貴重な体験だった。


コン

窓に何か当たる音で、花に見とれていた僕は我に返った。
カーテンを開けて外を見ると、庭木の下に微かな明かりがある。
庭は暗かったが、その明かりに照らされて丸い人影が見えた。
人影は頭を下げて、僕を手招きする。
その丸いフォルムに覚えがあった僕は
「ちょっと、コンビニ行ってくる」
適当な理由を付けて玄関から表に出て行った。
コンビニで友達と会ったことにすれば、多少帰りが遅くなっても不自然ではないだろう。

「こんな夜にごめんな、キューリ」
丸い人影は思った通り、狐のコンタだった。
「キューリの力が借りたくて、会いたいって人が居るんだ
 あの人ビビりだから、昼間はオッカナくて出歩きたくないみたいでさ」
コンタは肩をすくめてみせると、僕を人気のない雑木林に案内した。


雑木林には怪しい炎がユラユラと揺れている。
「あれ、延焼しない狐火(きつねび)だから安全だよ」
そう言うコンタの足下にも、小さな炎が燃えて道を照らしていた。
「オザキさん、連れてきました
 こちらが緑の指のキューリです」
コンタが声をかけると
「ほう、お前がそうか
 本当に頼りになるんだろうな?」
ガングロ金髪、つり目のイケメンが睨みつけてきた。
ヤンキー風だが線が細いうえ、身体が小刻みに震えている。

「今夜ってそんなに寒くないけど、大丈夫ですか?」
僕が話しかけたら、彼の身体がビクッと跳ねた。
「さ、寒いわけねーだろ
 こちとら、大妖狐九尾の狐の尾から生まれたオサキ狐様よ
 人間風情が、あんま近寄んじゃねー」
彼はジリジリと後退していく。
「オザキさん、キューリは良い人間だから怖くないですよ」
「なっ、ビビってとかねーし」

またしても僕は不思議な存在と縁を結ぶことになるのだった。
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