緑の指を持つ僕は、妖怪達に懐かれる

□閑話休題編〈No.19〜21〉
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〈No.19〉贅沢な収穫祭
  ◆KUNCHI festival◆


休日、僕は妖怪達の畑の手入れに勤(いそ)しんでいた。
今まで花一筋だったけど、喜んでくれる人(妖怪)の嬉しそうな顔を間近に見てしまうと実の生る植物を育てることに張り合いを覚えてしまうのだ。
今一人気の無かったキウイの実はお米(よね)さんがアンミツに入れたいと言うので、今では収穫のしがいがあった。


「キューリ、お疲れ様
 お昼にしないかい?お米さんが赤飯のおにぎりを差し入れしてくれたんだ」
小豆の世話をしていた小豆研ぎの荒井(あらい)さんが畑の隅にゴザを敷いて、差し入れの品を並べ始めた。
僕はありがたく提案に乗ることにして、ゴザに座るとおにぎりを頬ばった。
「美味しい!」
自分達で作った小豆が使われていると思うと、美味しさも一入(ひとしお)だ。
お米さんは妖怪『米研(こめと)ぎ婆(ばばあ)』なので、お米選びはお手の物だ。
赤飯のもち米は冷えてもモチモチしていて、小豆との相性は抜群だった。
噛めば噛むほど甘味と旨味が増していき、あっという間に1個を食べきってしまった。

「おかずやお茶もあるよ」
荒井さんがアルミホイルにくるまれた卵焼きを渡してくれる。
「オレンジ色!これ、田中養鶏場の卵だ
 あそこの卵、味が濃くて美味しいんだよね」
「養鶏場の奥さんのお裾分けらしい
 ごま塩のゴマや、ほうじ茶も貰い物だとか
 お米さんは顔が広いからね
 穫れたてキュウリの浅漬けも特製の出汁(だし)味で美味しいよ」
キュウリは漬けてあっても瑞々(みずみず)しく、確かに美味しかった。

「最近キュウリの減りが早いからチビ達がつまみ食いしているのかと思ったら、荒井、お前か」
深緑(しんりょく)は顔を歪めるが
「この苗は私が買ったものだから、少しくらい良いじゃないか
 ほら、河童用に超浅漬けも作ってくれたんだぞ」
荒井さんが差し出したアルミホイルを受け取り、中のキュウリを摘んで食べると、その後文句を言わなかった。
お米さんの作ったキュウリの超浅漬けは、深緑のお気に召したらしい。

「穫れたて産直の材料を使ったお昼ご飯、何か贅沢ですね」
「贅沢なランチセットが『甘味処ヨネ』では580円で食べられるんだ
 お汁粉や団子、アンミツ等甘味も充実
 最近はオハギも始めたよ
 学校でいっぱい宣伝して、売り上げアップに貢献してね!」

荒井さんは相場師をしているせいか他の妖怪に比べて金銭感覚がしっかりしているな、と僕は作り笑いで頷きながら思うのであった。
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