緑の指を持つ僕は、妖怪達に懐かれる

□小豆研(あずきと)ぎ編〈No.16〜18〉
1ページ/3ページ

〈No.16〉イケオジ?
   ◆AZUKI TOGOUKA◆


晴れた空の下、今日も小河童達はキュウリ畑の苗に熱心に柄杓で水をかけてやっていた。
時々、自分の皿にもかけている。
それは微笑ましい光景だった。

「深緑(しんりょく)、あの桶に入ってる水って特別な物?」
「いや、近くの川の水を引いているだけだよ
 ほら、前に萌葱(もえぎ)が流された川」
その言葉で、僕は黄緑色の小河童との出会いを思い出した。
「また雨で増水したりしない?ちゃんと安全策とってる?」
少し不安を感じ聞いてみたら
「前のままだが萌葱も少しは成長してるし、大丈夫だろう」
彼はノホホンと答える。
『どんな場所か確認して、萌葱に注意しておいた方がいいな』
なんだか最近、僕は萌葱のことを弟のように感じていた。
「ちょっと見てくるね」
僕はそう言ってその場を離れていった。


暫く歩くと大きな川から水を引いている小川を発見する。
時代劇とかに出てきそうな木の水門があったが、頑丈そうには見えなかった。
僕が川辺を歩いていたら、1人のおじさんの姿が目に入ってきた。
作業着みたいな繋ぎをきたおじさんで、僕の父さんより年上に見える。
『工事の人?でも繋ぎに社名とか入ってないな…
 まさか役場の人?この山、開発とかされちゃうの?その下見?』
そう気が付いて、僕は慌ててしまった。
おじさんも僕に気が付いて、こちらに向かって歩いてきた。
小柄で僕とあまり背が変わらないけど、口ひげがダンディーな人だ。
『イケオジ!役場にこんな格好良い人いたっけ?』
僕はビックリする。

「どうした?1人でこんな山の中にいるなんて
 学校でイジメられたのか?」
おじさんは優しく聞いてきた。
自殺でもしにきたと思われたようだ。
「え?いや、川を見に来て…」
『今の言い方だと川に飛び込む気満々みたいだ』
僕は自分の状況を上手く説明出来ず黙ってしまう。
「この山には妖怪がいる、なんて言われてるよ
 早く帰った方が良い」
『その妖怪が川に流されないか心配で、確認しに来ました』
とは言えなかった。

「うむ、この辺には人を捕って喰う妖怪が居るからな」
いつのまにか深緑が僕の側に立っていた。
「今は人など捕らんよ、人の財産は少々いただくがね」
おじさんはシレッと答えている。
深緑の知り合いと言うことは
「この人、妖怪?」
「そうだ、妖怪『小豆研(と)ぎ』だよキューリ」
「キューリ?では彼が緑の指の持ち主か」

その言われ方で、またもや妖怪から頼みごとをされるのだろうな、と僕はヒキツった笑顔を浮かべてしまうのだった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ