緑の指を持つ僕は、妖怪達に懐かれる

□猫又編〈No.10〜12〉
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〈10〉猫とマタタビ
 ◆boy meets cat◆




果樹園のお爺さんが、直販所の売り子を紹介したお礼で『キウイ』の苗をくれた。
農協のクジで当たったのだろう、1本しかない苗を持て余して僕に投げてきたようだった。
『キウイ…キウリ…キューリ?育てたら深緑(しんりょく)達これ食べるかな』
寒いダジャレを思いついてしまったが
『いや、狐と狸なら普通に食べるか』
そう思い直し僕は苗を届けることにした。


学校の裏山をテクテクと歩いていく。
休日だけど運動部は練習があるらしく、グラウンドの方から遠く人の声が聞こえていた。

テクテクテク
ひたひたひた

僕の足音の後ろから何かの足音が聞こえてきた。
『運動部の友達が、僕を見かけて追いかけてきたのかな』
そう思って振り向くが僕の後ろには誰もいなかった。
再び歩き出すと、やはり足音が聞こえてくる。
山道で何かに追われている状況に恐怖がわき起こってきた。
『お化けとか、妖怪?』
しかし妖怪の知り合いは多い。
『深緑に何とかしてもらえばいいだけか』
そう考えると気が楽になり、僕は深緑の畑に向かっていった。


「キューリ、珍しいモノを連れてきたな」
畑に着くと、深緑がニヤニヤしながら僕をのぞき込んでくる。
「うん、これキウイの苗なんだけど萌葱(もえぎ)とか食べる?
 ジーナとコンタは喜ぶと思うよ」
僕は抱えていた苗を深緑に差し出した。

「久しぶりだね、婆さん
 珍妙な若作りの格好して、ボケてきたか?」
突然深緑が、あらぬ方を向いて声を張り上げた。
「イケメン気取ってんのに時代遅れの格好をしてる爺さんに言われたかないわさ
 今、町ではこんな洋装が流行っとるんじゃ」
木陰から染み出すように人の姿が浮かび上がる。
それはゴスロリ衣装のキレイなお姉さんだった。

「気をつけろ
 あの妖怪婆、キューリを狙ってるよ」
その言葉に、僕は思わず苗を取り落として深緑の後ろに避難する。
ゴスロリ姉さんは素早く飛びかかってきて、僕の落としたキウイの苗に抱きついた。
「良い匂い〜たまんないわ〜」
彼女は苗に抱きついたままゴロゴロと転げ回っている。
恍惚の表情を浮かべ、口からは涎が垂れていた。

この光景には見覚えがあった。
うちの猫がキウイの葉や根に反応しているときの様子とそっくりなのだ。
キウイはマタタビ科マタタビ属、和名で『オニマタタビ』といわれている。
「深緑、この人化け猫?」
「ああ、年経(としへ)た猫又だ」

『妖怪になっても猫の習性って抜けないんだ』
僕はシュールな光景を見ながら妙に感心してしまうのであった。
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