緑の指を持つ僕は、妖怪達に懐かれる

□鎌鼬(かまいたち)編〈No.7〜9〉
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〈7〉鎌鼬(かまいたち)3兄妹・前編
 ◆sister & brothers〈1〉◆




朝、学校の教室に行ってみると、僕の机の上には花が置かれていた。
と言ってもイジメの類(たぐい)ではない。
ビニール袋に入れられた小さな鉢に植わっているクローバーで、その葉は4枚の物が多かった。
『品種改良か』
それは園芸部の後輩の作品であった。
僕は大振りな花が好きだが、後輩は野花的な小さな花が好きなのだ。
後輩の愛情を受けた花は可憐に咲いていた。


放課後、クローバーの入ったビニール袋をぶらさげて花壇に行くと、河童の親分(?)深緑(しんりょく)が僕を待っていた。
「また、キューリの手を借りたくてな
 今回は手というか、知恵を借りたいのだ」
妖怪より知恵があるのか不安になるが、深緑は僕のを手を引っ張ってどんどん学校の裏山に進んでいく。
お馴染みのキュウリ畑には、深緑のような着物姿でキリリとした和風のイケメン2人が僕を待ち受けていた。
「イタチだ」
ザックバランすぎる深緑の紹介に怯むことなく
「鎌鼬(かまいたち)長男の一郎(いちろう)です」
「鎌鼬次男の次郎(じろう)です」
彼らはまんまな名前を名乗った。
「キューリです」
間抜けな気もするが、妖怪相手にはこっちの名の方が通りがよさそうだった。

「あれ、鎌鼬って3兄妹なんじゃ」
僕は近所の婆ちゃんに聞いた話を思い出していた。
「そうなんです、相談したいことは妹のミッシェルの事なのです」
「妹さんだけ名前が凄いことに」
僕は思わず突っ込んでしまった。
「本当は『三ツ子(みつこ)』なんですが、そう呼ばないと最近は返事をしてくれなくて」
一郎さんはガックリとうなだれた。
「部屋の戸に木をぶら下げたり、継ぎ接ぎの寝具で寝たり
 人間が置き忘れていった本を読んでから、妹の様子が変わってしまったのです」
次郎さんも肩を落としている。

「ステキな花が欲しいと言うので、深緑殿に協力してもらい立派な菊を持って行ったら『辛気くさい』と大層怒られました」
「私は菖蒲(あやめ)を持って行ったら何も言わずに部屋の戸を閉じられ、ならば、と杜若(かきつばた)にすると『被るわ』と怒り心頭に発する様子で言い捨てられて」
嘆くイケメン達に
「菖蒲と杜若、別物なのにね」
僕はそう言葉をかけるしかなかった。
「気に入る花を持ってこない限り、金輪際口も利きたくないと言われたのです」
「お願いします、妹の気に入る花を育ててください」

「女の子(しかも妖怪)の好きな花なんて分かんないよ」
僕は頭を抱えてしまう。
お題が決まっていない分、今回の頼みごとは厄介なものであった。
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