緑の指を持つ僕は、妖怪達に懐かれる

□狐と狸編〈No.4〜6〉
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〈4〉狐と狸
 ◆fat & slim◆



僕は最近、深緑(しんりょく)のキュウリ畑の様子を見るため自発的に学校の裏山に通っていた。
今日も畑では小河童達が、せっせとキュウリの世話をしている。
よく見ると僕と同じ年くらいの少年が2人、小河童達に混じっていた。

「深緑!あの2人どっからさらってきたの」
思わず非難の声を上げる僕に
「あの2人は狐と狸だ、萌黄(もえぎ)よりきちんと人に化けているだろう?」
河童の親分(?)深緑は何でもないことのように答えた。
「昔から『狐狸妖怪のたぐい』と言うし、妖怪と狐と狸は兄弟みたいなもんだ」
深緑はしたり顔で頷いているが、河童の理論はよくわからない。
「今日はキューリにあの2人を助けて貰いたくてな」
深緑はそう言って2人を手招きした。

金髪で目が細く、腹鼓が似合いそうなポッチャリした少年が
「よっす!俺、コンタってんだ、よろしく!」
陽気に話しかけてきてウインクした。
ただし頬肉に押されてつり目気味に見えるため、本当にウインクしたのかは目の錯覚に近い感じだった。
もう1人の少年は深緑の後ろに隠れ怯えた目で僕を見ていた。
茶髪で線が細く神経質そうで、具合が悪いのか目の下に黒く隈が出来ている。
「ジーナ…」
蚊の鳴くような小さな声で名前を呟いた。
2人はいかにもな狸と狐だった。

「この2人のために柿の種を植えて欲しいんだ
 君の植物への愛で、美味しい実が生(な)る柿の木を育てておくれ」
深緑は無茶振りをしてきた。
「実の生る木は難しいよ
 柿なんて、実が生るまでに何年かかるやら」
と言ったところで気が付いた。
深緑は時間を進めることが出来るのだ。
この山でなら効果絶大らしいし、8年くらいあっという間なのだろう。
「何も、僕が植えなくても良いんじゃ」
ブツブツ言いながら、近所の果樹園の爺ちゃんに聞いた事を参考に種を植えていく。
キュウリより時間がかかったが、深緑のおかげで1時間くらいでたわわに実が生る大木に育ってくれた。

コンタが案外身軽に木に登り、柿を採ってきた。
「ジーナ、これなら食えるだろう?」
差し出された柿を受け取ったジーナはコクンと頷いて、熟した実にそっと歯を立てる。
「美味しい…」
夢中で柿を食べるジーナをコンタはホッとした顔で見ていた。
「偏食狸にも困ったもんだ
 俺みたいに観光客から巻き上げた物食ってりゃ、飢えずに済むのに」
その言葉に僕は混乱する。
「あっちが狸って事は、こっちが狐?」
「ああ、狐のコンタだ
 観光客がくれるスナック菓子最高!」
『ポン!』と立派な腹鼓を打つ狐を前に
『狐の餌付けダメ!絶対!』
僕は心の中で叫ぶのだった。
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