緑の指を持つ僕は、妖怪達に懐かれる

□河童編〈No.1〜3〉
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〈1〉出会い
◆boy meets MONONOKE◆



山奥のド田舎、それが僕の暮らしている町だ。
仕事の多くは農家で後継者不足に悩んでいる。
中学3年生の僕にすら高校には行かずうちで働かないか、なんて勧誘してくる状態なのだ。
けれども僕は高校に行って、農大に行って、いずれは生花農家に成りたい。
僕は野菜や果物より花が好きなのであった。


「先週撒いたマリーゴールドの種、発芽してるかな」
放課後、園芸部部長の僕は鼻歌交じりで校庭の隅にある花壇に向かう。
花壇の前には濃い緑色の着物を着て、おかっぱに切られたサラサラの黒髪のイケメンな若い兄ちゃんが立っていた。
町の人とは殆ど顔見知りだけど、知らない人だ。
「ここの花、育ててるの君?」
イケメンは爽やかに聞いてくる。
『近隣農家からの勧誘?』と思いながら頷くと
「素晴らしい指を持ってるね」
彼はいきなり僕の手を握りしめてきた。
そのまま肩を抱かれ
「ちょっと付き合ってもらっていいかな」
そう言うと強引に学校の裏山に向かって歩き始めた。
「え?何?」
僕の疑問などお構いなしに歩く彼に引きずられる形で、気が付いたら山の奥深くに連れ込まれていた。

連れてこられた場所には、いかにも素人が作った感じの畑にキュウリの苗が植わっている。
「これの育成に力を貸して欲しいんだ
 君、名前は?」
「久利(ひさとし)」
怪しそうなので下の名前だけを告げたが
「キューリ!良い名前だ、私は深緑(しんりょく)」
彼は変な読みで僕を呼んだ。
「肥料がダメなのかな」
深緑は途方に暮れた顔で元気のない苗を見つめている。
僕は野菜に興味はなくても知識は有り
「これじゃダメだよ、ここはこう、こっちは…」
つい熱心に苗の植替えをしてしまった。

「おお、見違えるようだ
 今夜は新鮮なキュウリが食べられる」
新たな畑にホクホク顔の深緑に
「そんなに直ぐに実らないよ」
僕は少し呆れてしまう。
「ここは私の土地だ、多少の裏技は使えるさ」
深緑はひざまずいて苗に何か語りかけ始めた。
動いた拍子に流れた髪の間に、盛大に地肌が見える。
『若○ゲ…?』
僕がそれに気を取られた一瞬の後
「大豊作」
嬉しそうな深緑の声がした。
気が付くと、今植えたばかりの苗が生長して大きなキュウリが何本も実っていた。


「キューリ、河童に恩を売ると良いこと有るよ」
呆然としている僕に深緑は髪をかきあげ、頭の皿を見せるとニッコリ笑うのであった。
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