ウラしっぽや〈R-18〉

□偽(いつわ)りの隷属◇日野◇
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しっぽや事務所の控え室で、俺はカズハ先輩に教わった生クリーム入りプルーチェの作り方を日野に教えていた。
「生クリームの量は好みで良いんだって
 100mlのパックを買って牛乳と半分にするか、200mlのパックを買ってリッチにオール生クリームにするか、そのときの気分とか買った生クリームのパックで決めれば良いんじゃね?」
「色々試してみたいから、何パターンか作ってみるよ」
日野は全部生クリーム、100ml、50mlの生クリームバージョンを、楽しそうにそれぞれ違う味で作っている。
「これ、混ぜてると固まってくるのが、不思議だよな
 混ぜ始めって、いっつも牛乳入れすぎたか、ってハラハラする」
俺は日野の手元をのぞき込みながらそう言った。

「確かに俺もそう思う
 前に、うっかり乳飲料で作って失敗したことあるしさ
 あれから牛乳買うとき『乳飲料か生乳か』っての気にするようになったんだ」
日野は舌を出してみせた。
「ははっ、実は俺もやった
 だって、全部『牛乳』だって思うじゃん
 乳飲料って、カルピスみたいなやつだと思ってたからさー
 あ、でも、生クリームはメーカーによっては少しユルくなるかも
 ユルくても冷蔵庫で冷やすと固まってくれるけどな
 ってこの量、冷蔵庫に入りきるか?」
俺は大量に出来ているプルーチェと冷蔵庫を見比べる。
「隙間無く押し込むためにタッパーで作ったんだ
 大丈夫、大丈夫」
日野は手際よくプルーチェ入りのタッパーを冷蔵庫に押し込んでいった。

「夏になったら作り置きしておいて、時間の空いた化生に自由に食べてもらえるようにするの、良いかもね
 揃ってお茶できる日ばっかりじゃないからさ
 大量に作っても、皆で食べればあっという間だし
 半額の生クリームとかゲット出来たときの、スペシャルデザートにするとありがたみ出るかな」
「日野ちゃん、半額でありがたみってセコいぜ」
俺たちは顔を見合わせて笑いあった。
「毎日じゃないところが、ありがたいと思うよ
 半額品狙ってると自分の意図しない状態で、『たまに』を生み出せるから良いと思うんだ」
日野はしたり顔でそんなことを言っていた。
「たしかに、毎日だと飽きるか
 たまにだから『美味い』って感じることあるもんな
 でも俺、ソウちゃんとは毎日ヤってても飽きないけどさ」
俺が笑うと、日野は『はいはい』と言いながら使い終わった食器を片付け始める。
俺はその後ろ姿を見て
『そう、たまに、だから美味いんだよな』
ニヤリとほくそ笑んだ。

俺は鞄からピルケースを取り出すと、食器を洗い終わった日野に近付いていく。
「日野ちゃんってさー、クスリ、使ったことある?」
俺の言葉に、彼は警戒の色を瞳に浮かべて睨んできた。
『クスリ』としか言ってないのに、こーゆー事は荒木より察しが良かった。
「あいつに無理矢理使われた?
 自分の意思とは関係なく体が反応しちゃうの、イヤだった?」
日野は何も言わず、怒ったように顔を背ける。
「効き目バッチリなのに、依存症も後遺症も残さない良いモン手に入ったんだよ
 試してみない?」
俺はククッと笑い、ピルケースの中身を手早く取り出し口に含んだ。
逃げようとする日野を捕まえてきつく抱きしめると、無理矢理唇を重ねる。
固く閉じられた日野の口を強引にこじ開けて、俺はクスリを日野の口中に押し込んだ。
直ぐに吐き出されないよう、唇でその口を塞ぐ。
日野は泣きそうな顔で首を振っていた。

やがて、日野の表情に変化が訪れる。
『ん?』
と言わんばかりの顔になり、口中のモノを味わいだした。
日野の体から力が抜けた頃合いを見計らって唇を離し、抱きしめていた体を自由にしてやった。
「これ、コッピーラムネじゃねーか
 意味ありげにピルケースになんか入れやがって
 ビビって損した、チクショウ
 ウラの悪ふざけ癖は知ってたハズなのに
 まったくもう、アホか!」
余程悔しかったのか、日野はいつまでも牛のように『もうもう』言って怒っている。
「だいたい、こんな手に引っかかる甘ちゃんいるのかよ
 味でバレバレだっての」
鼻息も荒く睨みつけてくる日野に
「駄菓子とかあんまり食ったことない奴だと、引っかかるんだなー、これが」
俺は肩を竦めてみせた。

日野はポカンとした顔になった後、何かに気が付いたように
「まさか、荒木…?」
恐る恐る、と言った感じで聞いてきた。
「日野ちゃんも、高校生名探偵になれるんじゃん」
俺はニヤリと笑ってウインクをする。
「あー…、あいつ、あんま駄菓子食ったこと無いって言ってたけど
 マジか…、こんなバカみたいな手に引っかかるとか…」
日野は大仰にため息を付いて頭を振っていた。
「ネタ知ってるソウちゃんすらビビる状態になっちゃってたぜ
 つか、実は俺もちょっとビビった
 カズハ先輩が言ってた『プラシーボ効果』って凄いのな」
「まあ、荒木って素直な奴だから」
俺と日野は顔を見合わせて、何となく頷きあうのであった。
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