ウラしっぽや〈R-18〉

□心身の錯覚◇荒木◇
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side<URA>

「荒木、今日は白久んとこに泊まりだろ?なら、ウチに来ない?」
俺はしっぽやの控え室でお茶棚の整理をしている荒木に声をかけ、誘ってみた。
控え室には猫達が居るが、飼い主でもない人間の会話の深い意味にまで注意を払ってないので、大胆な発言をしても問題ないのである。
というか猫達は皆ソファーでうたた寝をしていて、俺達の話を端から聞いてはいなかった。
荒木は俺の言葉を無視して、棚の整理を続けている。
俺は纏め終わったチラシの束をクリアファイルに分けて入れ、作業を終了させると、座っていたソファーから立ち上がり荒木に後ろから近付いた。

「ねーねー、荒木、聞いてる?また、ソウちゃんと白久に料理対決させようぜ
 ソウちゃん今、レンコンとかナスではさみ揚げ作るのに燃えてるんだ
 ヘルシーに鳥の挽き肉バージョンと、エビのすり身バージョン
 どっちも甲乙つけ難いくらい美味い!
 ところで『甲乙』って何だろうな?」
荒木の髪を両手でワシャワシャとかき回し、俺はキシシッと笑う。
「『甲乙』は『優劣』と一緒」
荒木は少し冷たく言い放つが、俺が触れているせいか頬が赤らんでいた。
「そなの?流石は受験生、って、もう受験自体は終わってんのか
 今の荒木や日野ちゃんの身分って、何つーのかね」
俺は今度は自分で乱した荒木の髪を優しく撫でつけて、元に戻してやる。
荒木の体が俺の手の動きを意識しているのが、ひしひしと伝わってきた。

「てか、何でウラが俺の泊まりの予定知ってんだよ
 ストーカーみたいだな」
荒木はわざとらしく不機嫌そうな表情を作って文句を言うが
「だって、白久に教えてもらったんだもーん
 こないだのレッスン、お気に召したみたいでさ
 お礼にって、和風シフォン焼いてきてくれたんだ」
俺はひるまずシレッと答えてやった。
荒木は俺の答えに肩を落として
「白久…ウラに懐柔されてたのか…」
観念したように呟いていた。
「カイジューね、俺って色的にキングギドラっぽいし、最強じゃん
 で、荒木、うち来る?
 それとも料理勝負は不戦勝でソウちゃんの圧勝かな
 肉系と野菜とのコラボ料理って、案外難しいもんね
 力量問われるところだよ」
俺は後ろから荒木の肩に腕を回し、耳元で囁いてやった。

「野菜とのコラボって言うなら、白久の作るピーマンと椎茸の肉詰めとか超美味しいよ
 最後に肉汁利用して、ソースだって手作りしてくれるんだから」
荒木は俺の言葉に対抗するように言い放って、ハッとした顔になる。
「じゃあ、決まり
 今夜は野菜のはさみ揚げ対野菜の肉詰めだ
 何か健康的な勝負だな、楽しみじゃん」
俺は笑って荒木の頭を撫でると、頬にキスをする。
荒木の頬は真っ赤になっていた。

「デザートは、俺が手作りするか
 最近、カズハ先輩に教えてもらって、俺も料理作ってるんだ
 今回の手作りデザートは『プルーチェ』
 混ぜるだけ!
 牛乳に生クリーム入れると、ゴージャス感アップの味になるんだぜ
 荒木は何味が好き?好きなの作ってやるよ」
俺は優しく聞いてみる。
「…りんご」
「おっと、マニアックなとこついてきたな
 あれって、スーパーで売ってたっけ?
 100均で見かけた気がするから、帰りにのぞいてみるか
 無かったらイチゴかピーチ辺りで良い?」
頷く荒木の頭を、俺はまた撫でてやった。
「じゃあ、楽しみにしてるから、そっちも買い物して部屋に来いよ」
俺の言葉に荒木はもう一度、素直に頷いてくれた。
『可愛いなー』
そんな荒木を見て、俺は今夜が楽しみでしかたなくなるのであった。




その晩は、健康的な夕飯になった。
「まあ、いつも肉と野菜、バランス良く作ってくれるから健康的な食生活ではあるんだけどさ
 コラボされてると、より健康的に感じるのは何だろな
 白久の作った肉詰め、確かにソースが美味かった
 照り焼きとは、またひと味違う感じでご飯が進む!」
俺は予め作って冷やしておいたプルーチェを器に盛って、荒木の前に置いてやる。
「はい、ご希望のリンゴ味
 これ、最後の1個だったんだぜ、荒木って運が良いな
 こっちはスーパーで見つけた新商品のメロン味
 デザートにメロンなんて、ゴージャスじゃん」
荒木は俺の作った(混ぜただけ)プルーチェを口にして
「あ、何かコクのある味になってる
 生クリーム混ぜたから?
 それだけで、ちょっと贅沢な味になるんだね」
そう言って驚いた顔をしていた。
「カズハ先輩に教えてもらった裏技」
俺は得意げに答えてやった。

「大麻生のはさみ揚げも美味しかったよ
 エビのすり身がエビ感あって、出来合いの総菜より美味しい
 あれって、自分で作ったすり身?
 それに大根下ろしの入ったあんかけなんて、何だか料亭の料理みたいだった」
荒木が素直にソウちゃんの作った物を誉めるので、俺は嬉しくなってしまう。
「レシピ、白久に教えといてあげるから、今度作ってもらいな」
俺の言葉に荒木は嬉しそうに頷いていた。
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