ウラしっぽや〈R-18〉
□深く繋がる家族◇桜沢◇
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side<URA>
「ソウちゃんの作ってくれるつまみ、最高!
ビールが進む!」
仕事が終わり、家に帰ってから『居酒屋ソウちゃん』で飲むのが最近の俺の楽しみになっていた。
ありきたりな唐揚げも、ソウちゃんが作ってくれるとひと味違う。
ショウガとネギがたっぷりと入っていて、あっさりとしているのに旨味が凝縮している感じがするのだ。
熱々を頬張ると、肉汁がジュワッとあふれ出してくる。
「今日は醤油の中に西京味噌をほんの少しだけ加えてみました
気に入っていただけたなら良かったです
今度は塩麹(しおこうじ)を混ぜてみようかと思ってます
長瀞に教わった隠し味です」
俺が誉めたからだろう、ソウちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。
出会った当初は酒を飲まなかったソウちゃんが、最近は俺に付き合って少しずつビールを飲むようになっていた。
今もビールが入ったグラスを手にしている。
『ビールにはどんな料理が合うか、自分も確認してみたい』
真面目なソウちゃんはつまみの研究に余念が無かった。
「こちらも長瀞に教わったものです
まだまだ、彼のレパートリーには適いませんね
自分とは発想が違います」
ソウちゃんが差し出してきた小鉢には、レンチンした千切りキャベツの中にオレンジ色の物が散っている。
「刺身用のサーモンを角切りにして、塩麹に漬けておいたものです
濃い目の味付けにしてドレッシング代わりにしてみました
長瀞は塩麹も手作りしているそうです」
ソウちゃんの説明を聞きながら、俺は何気なくオレンジ色の物を口にする。
「ふーん、サーモンね、けっこう美味いじゃん」
そう言って口の中の物を噛んでいると
「ん?んん?」
味が変化していった。
「ちょ、何これ?マジでスゲー美味いんだけど
噛んでると、どんどん美味くなってくる」
俺は箸が止まらなくなってしまう。
ソウちゃんは俺の反応を見て満足そうに微笑んでいた。
「ゲンの最近のお気に入りメニューだそうです」
「そっか、ゲンちゃんとこの『居酒屋長瀞』年季が入ってるもんなー
つまみメニュー、研究し尽くしてる感じ
でもきっと、ガッツリ系の揚げ物は『居酒屋ソウちゃん』には適わないぜ」
俺はニヒッと笑ってみせた。
「明日は桜ちゃん達が来るじゃん
これ出したら美味すぎてビックリすると思うよ
魚メニューで新郷に先手を取れるって、スゴいんじゃね?
クラフトビール買ってきてくれるって言ってたし『居酒屋ソウちゃん』で飲み明かそう」
「確かに、新郷を驚かせられるのは楽しみですね」
俺達は顔を見合わせて共犯者のように笑った。
ソウちゃんと桜ちゃんは小説の貸し借りをしている仲だ。
2人とも『ミステリーマニア』(本人達はそこまでの域には達してないと言ってるが、俺にとっては十分マニア)なのである。
桜ちゃんは会計士なんてお堅い仕事をしているのに俺みたいなチャラ男のことをバカにすることはなく、『小説を読まなくても、マンガなら読むかな?』と言って持っているマンガを貸してくれた。
彼は小説だけじゃなく、マンガも色々読んでいるのだ。
活字アレルギーの俺と違い、桜ちゃんは活字中毒なのだった。
明日はその桜ちゃんと図書館に行くことになっている。
自分には一生縁のない場所だと思っていたのに『影森マンション最寄りの図書館には、少しだがマンガも置いてある』という桜ちゃん情報により、思い切って行ってみることにしたのであった。
「桜ちゃんと会う用に、ノドが隠れる服出しとかなきゃ
目から風邪ひかせちゃ大変だもん
ちょっとチャイナ風の青いやつ、あれで良いか
ボトムは白にすっかな
この髪、図書館行くのに派手?結んどけば大丈夫?
眼鏡かけてなくても入れる?」
俺は少し緊張してきた。
『図書館』なる場所に、他の人がどんな格好で行くのか想像がつかなかった。
「ウラ、自分も眼鏡はかけていませんが、大丈夫ですよ
図書館では服装より、大きな声でしゃべらない事の方が重要です
スマホで通話するのもマナー違反です
ウラは貸し出しカードを持っていないので、借りる前に作らなければなりません
身分証明書を持って行った方が良いですね」
「おしゃべり…ああ、マンガとかでよくある図書館での『シーッ』ってやつか
スマホはマナーモードにしとくよ
身分証明…保険証で良いのかな
こんな時、免許あると楽なんだよなー
でも俺、学科に受かる気がしなくてさ」
ソウちゃんの忠告に従って、俺は1つずつ確認していく。
「あの青い服は、ウラにとてもよく似合っております
セクシー、と言うのでしょうか
隠されているからこその麗しさを感じられます」
ソウちゃんが頬を染めて俺を見つめてきた。
「大分マニアックになってきたね、色々と教えた甲斐があるよ」
彼の熱い視線にさらされ、俺も興奮してきてしまう。
「じゃ、明日の予行練習で、今夜はあれ着てみる
中身、確かめて」
俺が怪しく微笑むとソウちゃんは熱い瞳で頷いた。
今夜も、俺達には熱い夜が待っているのであった。