ウラしっぽや〈R-18〉

□心明るくする脱色◇カズハ◇
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side<URA>

「樋口君とウラ、先にお昼休憩とって良いよ」
ペットショップでのバイト中、チーフマネージャーがそんな言葉をかけてくれる。
ちょうど仕事のキリがついていた俺達は、ありがたくその言葉に従った。
休憩室に置いてあるポットのお湯でカップスープなどを作り、持ってきていたお弁当を広げると、ささやかなランチを楽しみ始める。

カズハ先輩の食べているサンドイッチを見ながら
『こないだ荒木とやったサンドイッチプレイ、良かったなー』
俺はついそんなことを考え、顔がニヤケてしまった。
俺に見られていることに気が付いたカズハ先輩が
「寝坊しちゃって、今日はコンビニのサッンドイッチなんだ
 でも、コンビニのサンドイッチって美味しいよね
 実は自分で作るのより好きだったりして
 ウラのお弁当は?大麻生が作ったの?」
無邪気にそんな事を聞いてくる。
「うん、ソウちゃんが作ってくれたんだ
 ソウちゃんの料理、最近磨きがかかっててプロ顔負け
 お弁当用のは、冷めても美味しいおかずにしてくれんの」
俺はソウちゃんがいる幸せを感じながら答えた。

「僕も空と暮らせるようになったら、お弁当作ってあげたいな
 空は僕にお弁当作ってくれるって言ってるから、交代で作りあうのが良いかなって思ってるんだ
 そうなったら2人で、大麻生にお弁当の作り方習いに行こうかな
 良い?」
「もちろん!ソウちゃんの広い胸貸しちゃうから、勉強しに来てー
 長瀞に追いつけ追い越せだよ
 そのうち化生1の料理上手は『大麻生』って言われるようになるかも」
俺はキシシッと笑ってみせた。

「そうだ、デザートにプリン買ってきたんだ
 ウラもどうぞ
 コンビニ行くと、つい、デザートまで買っちゃうんだよね」
カズハ先輩は備え置きの冷蔵庫からプリンを取り出すと、俺にプラスチックのスプーンと一緒に手渡してくれる。
「あざーっす、どうせならプッチンして食べよっと
 カズハ先輩もそうします?」
頷く彼のために皿を用意して、俺は早速プリンを開けた。
プルプル震えるプリンを見ながら、俺はちょっと考え込んでしまう。
「プリンか…そろそろ髪を染め直したいんだよね
 前に行ってた美容院は遠くなったから、どうすっかなー
 新しい店を開拓すべきか、馴染んだ店に行くべきか
 ん?何かそんなセリフがある本ってなかったっけ?」
髪色がプリンになってきたことを、俺は少し気にしていたのだ。
「それ、ハムレットの『生きるべきか、死ぬべきか』の事かな?
 オーバーだなー」
彼はクスクス笑っていたが
「あの、よかったら、姉が前に勤めてた美容院に行ってみる?
 月さんもそこで染めてるんだ
 ウラの気に入る色があるか分からないけど」
オズオズと、そんな事を言い出した。

「カズハ先輩の紹介か、良いね、行ってみたい
 つか、一緒に行こう
 前にも言ったじゃん、カズハ先輩も染めてみたらって
 トリマーなんだから、少しくらいオシャレな方が良いよ
 1人で行くより勇気出るでしょ
 次の休みっていつ?俺も休みだったら一緒に行こうね、はい決定!」
それは良い考えに思え、俺は強引に誘ってみた。
カズハ先輩が押しに弱い事を知っての誘いであった。
「え?いや、それは、えと」
アワアワしている彼にかまわず、俺は休憩室に貼ってあるシフト表を確認する。
「やった、次の木曜は2人で休みじゃん
 早い時間に行こう、予約した方が良い?今からで間に合うかな
 カズハ先輩、TEL番知ってんでしょ、ちょっと電話してみてよ」
彼は俺に押し切られる形でスマホを取り出し、電話をしてくれる。

こうして俺達は一緒に美容院に行くことになったのであった。




美容院の人たちはカズハ先輩のお姉さんのことを覚えている人ばかりで、彼の『髪を染めたい』と言う希望を喜んでくれた。
一緒に行った俺にもサービスしてくれて、少し割り引きしてもらえたのはラッキーだった。
俺は以前はハチミツ色に近い深めの金に染めていたが、少し明るめのプラチナ混じりの金を選び気分を変えてみることにした。
「ちと派手になりすぎたかな、まあ、ペットショップでは結んどけばあんま関係ないか
 これで空にはもう『オムレツ色』とか言われないだろ」
俺は鏡を見ながら、満足げに微笑んでみせる。
「ごめんね、空の言ったこと気にしてた?
 大丈夫、今はオムレツじゃなく、ロールケーキのスポンジみたいな色だよ」
「………、カズハ先輩、全然大丈夫な例えじゃないんだけど…」
俺はガクリと肩を落としてしまう。
「え?ごめん、えと、メロンパンみたいな色だね」
カズハ先輩は慌てて言い直してくれたが、言い直す意味が分からない例えであった。

「カズハ先輩は焦げたハンバーグ色?空が好きそうな色だ」
俺はお返しにそんな事を言ってやった。
「あ、うん、そうかも」
嫌み混じりの言葉だったのに、カズハ先輩は照れくさそうな顔になる。
「もちっと明るい、焦げてない茶にすれば良かったんじゃないスか?」
俺はマジマジと彼の顔をのぞき込んだ。
「これが精一杯譲歩した色なんだけど」
オドオドしている彼に
「まあ、真っ黒長髪よりは明るく見えますよ
 どう?少し明るい気分になったでしょ」
俺はニヒッと笑ってみせた。
「鏡見るのが、まだ恥ずかしいよ」
カズハ先輩は、それでも少し明るい顔で笑っていた。
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