しっぽや5(go)

□秋、満喫!
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ブドウ狩り当日は、爽やかに晴れた日になった。
「見事な秋晴れだよなー」
週末なので道路は混んでいたが渋滞するほどではなく、俺の運転でもスムーズに進んでいった。
「僕、結構な雨男なのに凄いや」
後部席の野坂が興奮した顔で窓の外を見ている。
「果物狩りって初めてだよ、野坂と一緒に初めてのこと出来るの嬉しいな」
伊古田も窓の外をながめながら興味深そうな顔をしていた。

「荒木が運転しながらでも食べられるよう、小さめのおにぎりを作ってきました
 温かいお茶と冷たい紅茶もございます
 欲しいときはいつでも言ってください」
助手席の白久が俺を見つめて微笑んでいた。
「僕も、この前教えてもらったロールサンド作ってきたよ
 これも片手で食べられるかなって
 お昼ご飯にしても良いように、敷物も持ってきた
 車で送ってもらうし、入園料っていうのは全員分僕が払うからね」
伊古田が言うと
「僕はコンビニでスポドリとお菓子買ってきたんだ
 何か遠足に行くみたいで、ちょっと気分が盛り上がっちゃった」
野坂も照れた顔でビニール袋を掲げる。
車内は浮かれた空気で満ちていた。


ブドウがメインという事で車内での飲食は程々にしておいたから、着いたときにはそこそこ空腹な状態だった。
受付を済ませると、さっそくブドウ畑に入っていく。
天気の良い週末なので人出は多かったが、時間制限があるため回転は良さそうだ。
「シャインマスカット食べ放題って、贅沢!
 昔はかなり高価だったけど、今はあちこちで見かけるようになったよね
 ただ、今のは粒が小さくて皮がそんなに張ってない気もするかな」
野坂にそう言われても、デラウェアと巨峰くらいしか食べたことの無かった俺にはよくわからない。
煮え切らない俺の反応を見て
「うちは母がフルーツ好きで、よく通販してるから」
野坂は少し恥ずかしそうにそう付け加えていた。


まずは自分たちで食べる用のブドウを探す。
「えっと、緑のブドウは皮の色が薄い方が良い、って書いてあったな
 うわ、1房が結構大きいや
 白久、取りあえず1房食べてから次を採りにいこうか
 味を確認してみよう」
「かしこまりました」
俺達は1房を厳選して採ると、テーブル席に移動した。
野坂たちも1房抱えてやって来るところだった。

「それじゃ、いただきます」
房から1粒取って、そのまま口に入れる。
皮のパリッっとした感触の後に、爽やかな甘さの香り高い果汁が口の中いっぱいに広がった。
「何これ、凄い美味しい!変に甘ったるくない、スッキリする甘さだ
 皮が弾ける食感も良いね、こんなの初めて!
 シャインマスカット風味、とか言うデザートとは全然違うよ」
思わず驚きの声が出てしまった。
「成る程、納得の美味しさです
 本物の果物と香料を使ったお菓子では、やはり違うものなのですね」
白久も気に入ったようで、次々と口にしていた。
「うん、ここのは美味しいね
 きっと伊古田が選んでくれたからだ」
「野坂が採ってくれたからだよ」
野坂たちもノロケながらも美味しそうに食べている。
2房のシャインマスカットは、あっという間に軸だけになった。

「俺、1人で後1房食べられそう」
「私もです」
俺と白久は顔を見合わせて、もう1回採りに行くことにした。
野坂たちも後1房いけそうらしく、俺達は連れだってブドウ畑に戻っていった。


再びテーブルでシャインマスカットを食べながら
「皆へのお土産も採っていこう、明日事務所に持ってけば採れたて新鮮な状態だ
 自分たち用は2房でいいか、これ、ジャムとかにしちゃうのもったいないもんね
 あ、親へのお土産用もいるか」
どれだけ採ろうか相談する俺と白久に
「あの、せっかくだから大学にも持って行かない?
 久長と蒔田と近戸にお土産で
 食堂で食べたら怒られるかな、直ぐ食べられるからベンチで摘んでも良いし」
野坂が怖ず怖ずと声をかけてきた。
「良いね!きっと皆喜ぶよ」
その前向きな提案が嬉しくて俺は力強く頷いてしまった。
「よし、じゃあ、制限時間まで厳選して採ろう!」
俺達は意気込んでブドウ狩りを楽しみ、会計の人が発送しなくて大丈夫かと心配するほど大量のシャインマスカットを買い込んで農園を後にした。


まだ時間があったので、その後は紅葉狩りスポットにも寄ってみる。
紅葉はまばらだったけど、自然の中を散歩してレジャーシートを広げて弁当の残りを食べて、遠足ムードを大いに楽しんだ。


帰りの車の中
「僕も免許取ろうかな、荒木にばかり運転させるの悪いし
 車があれば伊古田のところにもっと行きやすくなりそうだから
 あんまり時間かけたくないし、冬休みに合宿やってるとこ探してみる
 そのときは勉強とか教えてね」
野坂の言葉に
「学科は日野か遠野かナリに聞いた方が良いと思う…」
俺はそんな情けない返事を返すのであった。
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