しっぽや5(go)

□楽しい夏休み〈番外編〉秘密の夏休み
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「おはよーさん、遅刻せずに来れたな」
モッチーは俺達を見てニヤニヤ笑っていた。
『遅刻しなくてもお見通しっぽい』
俺はモッチーの勘の良さを呪いながら
「おはようございます、今日はよろしくお願いします」
そう言って頭を下げた。
「山道ですけど、本当に大丈夫ですか?」
その後、思わず小声でそう付け加えた。
しっぽや関係者の中で、彼は『山道で事故った人』として有名だったからだ。
送迎してくれるのに失礼だとは思ったが、ひろせと事故に遭うのは勘弁したかった。
「山道だから言われるとは思ったが、本当に大丈夫だって
 あの時は夜だったし焦っててスピード出してたから
 今回ソシオも一緒なんだぜ、ソシオ乗っけて事故るわけにいかないだろ
 超安全運転するから」
モッチーは神妙な顔で頷いていた。

「ひろせ、おはよー
 凄い荷物だな、着替え?向こうに猫用の服とか残ってるよ」
「おはよう、ソシオ
 荷物は武衆の皆へのお土産です、お店で見てたら色々欲しくなっちゃって
 こっちは今回運転してくれるモッチーへのお礼なんです
 運転しながらでも食べられそうな物を選んでみました
 僕とタケシ、朝御飯食べるの間に合わなかったんで車の中で食べて良い?」
「良いよ、モッチーが作ってくれたアイスコーヒー持ってきたから飲んでよ
 コーヒーも紅茶みたいに水出しできるんだ、少し時間はかかるけどね」
「へー、それはお手軽で良さそう、今度事務所で作ってみようかな
 作り方教えてください」
猫達は和気藹々と話し込んでいる。
俺達は荷物を積み込んで、お屋敷目指して出発した。


走り出した車の中で俺とひろせはオニギリにかぶりつく。
鮭、ツナマヨ、焼きタラコ、昆布の佃煮、オーソドックスな具だけれど、どれも鉄板で美味しかった。
卵やウインナーを焼いてくる時間がなく、オカズに魚肉ソーセージを持ってきたので遠足気分満載だ。
モッチーとソシオにもお裾分けして車中皆で食べると
「何か、遠足みてーだな」
同じ事を考えていたらしいモッチーが、笑って言っていた。

車は住宅街や幹線道路を走っている。
懸念する山道には中々入らず、俺は正直ホッとした。
「モッチーも向こうで修行とかするの?仕事もあるし、いったん帰る?」
そう聞くと
「ゲン店長にゃ、向こうでノンビリしてこいって言われた
 ついでに事故物件要員としてパワー付けてこいとさ
 事故物件行って自分だけ無事って言うのも何だなーとは思ってたんで、その辺聞いてみようと思ってるよ
 ゲン店長、面倒見が良いせいか変に敏感みたいだからさ
 タケぽんは大丈夫そうか、上手くシャットアウト出来てる気がする
 しすぎて周りが見えなくなる傾向もありそうだが
 ナリみたいにきちんと説明してやれなくてすまんな」
本能みたいなモッチーの言葉だったけど、俺にとっては能力を認められたみたいで嬉しかった。
「後、和泉センセが離れを使うと旅行気分が増すし良いって言ってたな
 高校生には離れはまだ早いから、タケぽんは母屋の客間を使えってさ
 俺達だけ悪いな」
「いえ、3食付きでタダで泊めてもらえるだけでありがたいです
 旅行のサイトとか見ると、一泊するのもけっこーかかるなって」
「まあ、旅館の値段はピンキリだけどな
 回りに何もないとは言え3食付き、温泉付きでタダだったら破格だ
 車を置かせてもらえるのもありがたい
 買い出しやら掃除やら手伝わないと罰が当たるな」
ツーリングが趣味のモッチーは旅慣れているようだった。

やがて山に近づいて行く。
「地元の人が迂闊に入り込まないよう目くらましかけてるって言ってたが
 ぱっと見た感じ、1本道っぽいな」
モッチーが前方を見て言うと
「だって、俺達が居るからそんなの効かないよ
 化生には普通に帰りつける場所だもん」
ソシオが得意げに答え、ひろせも頷いている。
「三峰様の領域だし、モッチーにちょっかいかけてくる奴はいないからね
 俺が居るからには、山の怪なんかにモッチーを傷つけさせない」
ソシオは強い意志を込めた瞳でモッチーを見ていた。
「僕もタケシを守ります」
俺の手をギュッと握りしめてくる、ひろせの手の温もりが嬉しかった。


呆気ないくらい無事に、車はお屋敷に着いた。
広大な庭に車を停めさせてもらい、荷物を下ろす。
大きな犬達がワラワラと群がってきて
「ひろせお帰り、健康そうで良かった」
「可愛がってもらってるんだな」
「後で波久礼にうんと甘えといてくれ、あいつ、猫成分が切れてて今にも猫を拾ってきそうなんだ」
「果物色々用意しといたぞ、調理場でお菓子作りして良いからな」
皆でひろせを撫でまくっている。
ソシオとモッチーのところも似たり寄ったりの歓迎を受けていた。

「ただいま、お土産色々買ってきたから皆で食べて
 こちらが僕の飼い主のタケシ、格好良いでしょう
 格好良いだけじゃなく、凄く頼りになるんですよ」
ひろせの紹介で次々と武衆の犬達が挨拶してくれる。
化生だから当たり前なのかもしれないが、どう見ても全員が俺より格好良くて頼りがいがありそうだった…
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